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馴れ初め 1

 両親がいなければ、姉と共に生まれる事すら許されなかった。

 魔法がなければ、楽しい事も苦しい事も嬉しい事も体験できないまま、死んだように生きていた。

 スキルがなければ、愛する喜びも悲しみも知らないまま、彼女を見捨てていた。


 異世界から召喚された彼女は、教えるのが不慣れな私でも安心できるくらい飲み込みが早く。魔力と同様に身体能力も訓練されている騎士たちより頭一つ分抜けていて、魔法属性もスキルも戦闘には不向きではあったが、出立までにかかった期間は長くなく。

 人当たりもよく、好かれやすい性質の彼女に同行したい者が多い中で指名された時は、嬉しさのあまり寝付けなかった事をよく覚えている。


「異世界人召喚は、亜空間から魔力を調達する為に作られた偽の口実だよ」


 旅に出て間もなく遭遇した魔獣がコカトリスで、あの時は本当に死ぬかと思ったし、果敢に戦おうとする一方で隙あらば人を盾替わりにするから「ふざけんな」と、初めて他人を怒鳴りつけたな。

 いつだったか、喧嘩をしている状態で魔物を倒した事もあった。

「魔物の狂暴化は、空間を裂いた時に生じた余波が原因で起きている」

 旅の途中で聞いた異世界の話は、とても驚くことばかりで寝物語に聞きたいとせがんだら「俺はお前の母親じゃねぇぞ」と言われて、少し恥ずかしかったな。

 互いの世界を話すことが寝る前の日課になったのは、その日からだ。

「それだけじゃない、本来は結び付くことの無い世界が空間を裂いたことでつながって、その際にできた穴から異世界人は落ちてきている。召喚されているわけじゃない」

 旅に慣れてきた頃、彼女から魔法の使い方を質問されている内に試したくなったのが、例の火魔法もどきだったんだ。魔法属性は確定されても、因子事態は残っているはずだと思ってな。

 調べた結果、微力ながら他の属性も使えることがわかって二人でハシャいだよ。さすがに火の魔法因子は失われていたが、水魔法だけでは心もとない場面もあったから以後の戦いでも重宝された。調子に乗って片腕を失くしたが些末な事だよ。

「そのことに気づいた連中が異世界人を利用する事にして、実行したのが十五年前だ」

 同行者が増えて、旅での負担も減ってきた頃に彼女から打ち明けられた話は、本当に衝撃的な内容だったな。異世界でも同じような理由で縛られるのかと知ったら、自分だけではないんだと思ったら、少しだけ心が軽くなったのを感じた。

 彼女から告白されたのは、その話をされてから数日後の事。

「しかも異世界人は、こっちに長くいすぎると攻撃性が増して―― 悪魔のようになるんだと」

 魔王を討伐して、仲間たちと再び会う事を約束して別れて、国へ帰るまでの間に考えた告白の返事を聞いて彼女は泣いて喜んだよ。落ち着いたらまた旅をしようと約束した。

 もう叶わない事だが、今後も彼女意外と添い遂げたいとは思わないだろうな。


「証拠なら俺たちの村に『いる』よ。命を狙われているから、連れては来れないけどさ」


 綺麗な事だけではなかったし、失ったものを数えると苦労の方が多い気もする旅路だったけれども、否定される方が当たり前だった私にとっては、今までが帳消しになるくらい楽しくて充実した日々。どれだけツライ事があっても、あの日々を思えば耐えられる。

「そう、思ってきたんだがなぁ……っ」

 魔族の長を自称する少年・ハロルドが去った後、長い沈黙に耐え切れなくなった私が語る亡き妻との馴れ初めをアンジェラは黙って聞いてくれた。

「魔力の調達、落とし穴、異世界への影響……。なんだそれ、要するに私たちは死ぬ思いをしてまで、お偉方の尻拭いをしていたわけか?」

「おじさま……」

 泣きそうな声で寄り添ってくれるアンジェラと鼻をすすっているジュリアには申し訳ないが、自分の中で荒れ狂っている感情の波を抑える方法がわからず、そのまま吐き出していく。

「そういえば魔王が死ぬ寸前に帰りたいと言っていたな、あれは聞き間違いじゃなかったのか。最低だな当時の私、初めての告白で浮かれていたのかな?」

 両親と死別して以来、姉と義兄とタナバさんを除いて心を許せる相手がいなくて、そんな中で出会えた相手から「愛してる」と言われた時の高揚感は鮮明に覚えている。ずっと他人に怯えてばかりだったからか、真剣に伝えてくれたのだから真剣に答えなくては、と初めて思った時だ。

 当時は十五歳だったが、まともな告白を受けたのは初めてだった。

「帰還方法を探しもせず、恋人ごっこの果てに相手を自殺させて、愚かにもほどがある」

 初めての恋が最後の恋になるだなんて、あの時は思いもしなかった。

 あの話が本当ならば、臆病でメンタルは弱いが責任感はある彼女の不可解な死にも納得できる。

「納得できるが、エドガーになんて説明すれば……っ!」

「叔父様?!」

 アンジェラの悲鳴にも似た声掛けで、心の中で考えていた事が漏れていると気づく。

「イチョウ様が自殺って、どういうことですの? それに何故、エドガキの名前が……詳しく教えてくださいまし!」

 私の肩を掴み、前後に揺らしてくるアンジェラの鬼気迫る圧を前に思わず答えそうになるが、ただでさえ色々と重なって疲労している脳を揺らされ、気持ち悪さに拍車がかかる。

 取り繕うにしても誤魔化すにしても話を逸らすにしても、まずは落ち着かせなければ。そう思い口を開いた瞬間、胃の中にあるモノがすべて逆流してくる感覚に襲われ、咄嗟にアンジェラをジュリアの方へ避難させることには成功するも醜態を晒すこととなった私。

 悲鳴にも似たアンジェラの呼びかけが、部屋中に響いた。

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