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魔族の長

 発現してばかりの頃は、酷い頭痛と気持ちの悪さで頻繁に倒れる日々。

 だいぶ収まった頃に足が不自由な姉の代わりとして出席した社交場で嘔吐し、混乱のあまり自ら首を切ろうとした私に先々代の陛下が手を差し伸べてくださってから私の人生は変わった。

 魔法だけでは得られなかった世界をスキルが与えてくれた。と、今でも思っている。


 西の王国・エヴィルランドは魔素に恵まれた土地柄の故か、魔法との相性が良い。加えて五ヶ国の中で最も魔法の扱いが上手い事もあり、各国にある魔法学校の教師ほとんどがエヴィルランドと周辺国出身で占められている程だ。

 そうして偉大な魔法使いを輩出している反面、魔力のコントロールが上手くできない者や体質的に使えない者への風当たりが強く。魔法よりもスキルを重視する北の王国や、魔法を必要としない民族が多い南の王国とのトラブルが絶えない。

 ランプランド王国も昔は西と同じ価値観であったが、東の王国と交流を始めてからは価値観が軟化していき、今では中立的な思想となっている。

 そんな中立的な思想となっても【魔族への敵愾心】だけは他国と共通していた。

 旅で得た経験もあって、言葉が通じる相手の厄介さを十分に理解している今では、自分のスキルが持つ副産物は大いに役立っているし、数少ない誇りでもあった。


 エミリオ殿下と別れ、予約がされていた宿屋に到着した私たち。

 二部屋を借りたというのに、私から離れようとせずに頼み込んでまで入室するアンジェラの様子から、もしや『はめつふらぐ』が関係する場所なのか確認しようとした矢先、背後から禍々しい魔力の気配を感じて振り返ると部屋の中心に立つ、一人の少年。

「はじめまして、勇者の付き人殿」

 黄色の髪に赤と緑の瞳を持つ愛らしい顔立ちの少年は、恭しく頭を下げてくる。

 そのまま始めた自己紹介で、ハロルド・ペールエールと名乗った少年は自身を【魔族の長】だと自称して「個人的な交渉をしたくて訪れた」と両手を上げる。

 すぐにでも切り捨てたかったが、アンジェラとジュリアを含めた一般人を守りながら戦える相手ではないと判断し「聞くだけ聞こう」と続きを促す。

「さすが外交担当、冷静で助かるよ」

「その前に周囲を確認させてもらう。距離も今の状態で、あと種族に属性とスキルも確認する」

「さすが魔法騎士、遠慮が無い。……種族は【スライム】属性は【土】スキルは【分身】だ」

 見目と表情の使い方からデーモン、立ち振る舞いからヴァンパイア、魔力の抑え方からエルフを想定していた為に魔族として認定されている事実の衝撃も含めて、出された種族名に驚く。

「スライムは【粘着】か【捕食】のスキルしか持てないはずでは?」

「それはベビーの頃で、そもそも粘着は人間でいう五感の一つだよ」

 魔獣に詳しい第七騎士団の友人から受けた教えもあったため、確認のために質問をしてみれば、上げたままだった両手の形状を翼やハンマーに変えながら答える少年・ハロルド。

 最終的には最初の形へと変わった彼の両手は、凝視して気付いたが若干、透き通っている。

「赤子の時は【捕食】で統一されているのか!?」

「食べた量やモノによってスキルが変化するんだそうだ。面白いよなぁ―― もういいか?」

 感心と驚愕で震えていたら呆れた様子で問いかけられてしまい、すぐさま水魔法による探知を行う。


「人間側と交渉できる場を作ってほしい」


 一応の安全は確認でき、目の前に立つ少年が自称していた事は本当かもしれないと警戒心を強めていた私は、三度目の衝撃に襲われる。

「あなたの立場や今までの功績は重々承知している。過去についても、少し調べさせてもらった」

 ベアウルフに食い殺される両親。ゴブリンに足を奪われた姉。オークに嬲り殺された義兄。

 家族だけではない、友人や同僚や先人たちの事を思えば、何を言い出すんだと今すぐにでも怒鳴りつけたいところだったが「承知している」と言い切る彼に対して興味が沸いた。

「聞くだけ聞こう」

 我ながら情けないとは思うが、不明な点が多い相手との戦闘にアンジェラたちを巻き込むことだけは避けたい。

 続きを促す私に「ありがとう」という彼の嬉しそうな表情が、どういうわけかエドガーやサクラ殿と重なって見えて思わず舌打ちしそうになる。

「交渉の前に一つだけ聞かせてくれ、あなたは異世界人召喚の目的を知っているか?」

 もしや何かの時間稼ぎなのか? すぐにでも切り捨ててしまうべきか迷いながらも「異世界人を召喚する事だろう」と答えれば、ホッとしたようで呆れている、もしくはこちらを憐れんでいるような目を向けられる。


「異世界人の召喚は、亜空間から魔力を調達する為に作られた偽の口実だよ」


 瞬間、思考と視界が一時的に停止したような気がした。

 そんな状態でも続いている彼からの話は信じられないものばかりで、ただただ混乱してしまっている私の脳裏を過るのは、-- 大木の枝から垂れ下がり、ユラユラと揺れる影。

「そんな、はなしを信じろ、と? だって、それが本当なら……それが、っ、それが事実なら」

「証拠なら俺たちの村に『いる』よ。命を狙われているから、連れては来れないけど」

 ここまで言われたとて、それが真実かどうかなんてわかるわけじゃない。ウソかもしれない、はったりかもしれない、目の前の少年・ハロルドは嘘を言わない気もするが、それはそれだ。

 断ってしまえばいい、断ってしまえば話は終わる。

「貴殿の話にはウソ偽りを感じない。ハロルドといったな、詳しい話は明日で良いか?」

 おわるのに、おわらせることができないのは、私が忌み子である証明だろうか。


 スキルには副産物がある。

 強化型なら反射神経や全体を見通す力が、干渉型なら観察眼や心理状態を見抜く力が、物質型なら構造の把握や分析する力が突出している。

 そして私のスキルは、干渉型に分類されている。

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