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そろそろ胃が痛い

 長らく小競り合いが続いていた隣国との停戦交渉を終え、今度は凶暴化していく魔物への対処と調査について会議を始める―― はずだった。


「ライアン・グラニエール騎士団長。大至急、応接室に来てほしい」


 日頃から沈着冷静を体現する宮廷魔術師が、血相を変えて飛び込んできたかと思えば、応も否も言わせてもらえずに連れ出される。

「どうされたのです、魔術師殿」

 あまりの剣幕に押され、引かれるままに追従していく道中で理由を聞くが、何やらブツブツと自分の世界に没入している魔術師殿の様子から事態の深刻さだけは理解する。


 魔族側から使いでも来たのだろうか。もしや、隣国との交渉で何か不備でもあったのだろうか。

 そんな不安が渦巻く中、足を止めた魔術師殿に促され、入室した応接室には国王陛下と大臣が、異国の衣装を身にまとった女性二人と向き合って座っていた。


 奇妙な光景に気を取られ、あいさつが遅れた私に陛下は気分を害した様子はなく。むしろ安堵したような表情を見せられ、困惑する私に「何も聞いていないのか?」と尋ねてくださった大臣に対し、素直に「はい」と答える。

 しかし、険しい表情を大臣が浮かべる横で「説明は後だ」と、唐突に席を立った陛下が私の後ろに回り、背中を押す。

「グラニエール、今から彼女たちと対話をしてほしい」

 命令というよりも懇願に近い気がした陛下の御言葉から、何となく事情を把握した私は、怯えながらも覚悟を決めている様子の少女と。こちらの出方を伺っている女性と向き合う。


 申し訳程度に白い線が一本入れられている赤一色の衣装と、青い布を頭に巻き【休み】を体現している亜麻色の瞳を持った女性と。

 隣国の軍服に似ているが、愛らしさと少々はしたない印象のある紺色の衣装と自国では珍しい、艶やかな黒髪と青い瞳を持つ少女。


 事情は把握したが、あとは推測するしかない状況の中で、とにかく陛下の言う対話を試みる。


「『長らく待たせてしまい、申し訳ない』」


 片膝をついた私の語り掛けに、少女の体が強張ったのを視認する。

「『まずは異なる世界から我らの招きに応じてくださったこと、感謝いたします』」

 姪と同じ年くらいの彼女が、どれほど怖い思いをしていたか。考えただけで胸が詰まる。

「『私の名はライアン・グラニエール。こちらにいるルクリス・フォン・ランプランド陛下が治めるランプランド王国で、騎士団長の一人を務めております』」

 少女に寄り添う女性からの鋭利な視線から、目をそらさぬよう、言葉を紡ぐ。

「『お二方の名前を教えていただけますでしょうか』」

 そして、彼女たちが状況を把握しやすいように、こちらが敵対者ではないことを含ませ、何よりも聞き取りやすいように穏やかな口調を心がけて一番、聞きたかった質問をした。

 緊張感のある沈黙が流れる中、もしや失敗したのだろうか、と思い始めた時。


「『かえで……。カエデ・ヒグラシ』」

「『サクラ・コガラシです』」


 休みの体現者である女性・カエデに続き、黒髪の少女・サクラの応答に私が謎の感動を覚える後ろで、陛下が声を上げて喜んでくださりホッとしたのも束の間、大臣と魔術師殿が火花を散らし始め、しばらく室内は荒れた。


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