魔法使い事始め……②
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃないか」
彼女は奇麗な顔を顰めて俺を睨んだ……それは不満の表明なのか? そんな顔をされたってこれ以上話す事なんか無いぞ?
「勘違いするなよ? 二條が真剣なのは分かってるが……アレが何だったのかは俺にだって見当もつかないんだ。俺にすればこんな力なんて持っててもロクな事にならないと思うが……もし本気だって言うなら毎日俺なんかにかまっているよりアレを探せよ。その方がよほど有意義だと思うぜ?」
俺は、まだ不満そうな彼女にそう告げると通学用のバッグを手に取りそのまま席を立った。このまま会話を続けるのは周囲の迷惑になるし、そもそも彼女に見つかってしまったならここに居る意味も無い。読みかけの小説は……次の時間潰しの為に借り出さず書架に戻す事にした。
「だいたい二條の家なら俺達が知らない様な噂話だって……耳に掠るくらいの事はあるんじゃないか? なんたって二條は、れっきとした貴族の血筋を引くお姫様なんだからさ」
これは俺の祖父から聞いた話だが……二條家は、なんと鎌倉時代から続いている由緒正しい血筋らしい。そう、彼女は現代日本ではなかなかお目にかかれない……本物の貴族筋の人間なのだ。必然、俺の様な庶民とは(爺さんはあくまでも別の家の人間だし)耳に入る噂からして違うだろう。
「あのね、それはあくまでも本家の話で、私の家はかろうじて“二條”を名乗れる程度の家……血筋で言えば傍流もいいところなの。だいたい、今の日本で“貴族の末裔”が権力者みたいに振る舞える訳無いじゃない。ましてや……ウチみたいな“端っこ”じゃね」
俺は居づらくなってしまった図書室から退散する為にドアに向かったのだが……彼女はさも当然と言わんばかりに俺に付いて来る。まぁいつもの事だが、二條はこうなると話が長いんだよな。
「だとしたら……余計に俺に関わっても時間の無駄だぜ。何度も言うが俺の能力の事は自分でもロクに分からないんだ。まぁ多少の護身には便利な代物だけど、今時こんな能力があったっていいとこ“テロ集団”くらいにしか就職先はねえんだぜ?」
これは心底俺の本心だ。あの山の麓で、突然陥没した地面の先に存在した地底湖……そこに存在した不思議な物体は、まだガキだった俺が地の底から生還する役には立ったが……とても人生の役に立つ様な代物じゃ無かった。
「そうはいかないわよ! 言いたい事は分かるけど……今のところ“確実な手掛かり”は慎太郎自身だけなんだから! だいたい……慎太郎は能力の研究も検証も付き合ってくれないじゃない。もしかして“能力者は他の人間の覚醒を促す事が出来る”みたいな力があるかもしれないのに!」
「……二條は少年ジャ○プの読み過ぎだよ」
彼女はいわゆる“重度のオタク”というヤツだ。
持ち歩いているタブレットには図書館並の電子書籍が装備されてるという噂だし、授業中でも大抵教科書じゃなくてそっちを見ている。ただ……入学してから一ヶ月、二條の小テストの成績はトップ3から下に落ちた事が無い。さっきの翻訳だって……本当に自分で出来なかったか怪しいもんだ。
「……ハ○ター×ハン○ーは神作よ!」
「その主張に異論はねぇけどよ……そういう意味じゃねえの分かってんだろ?」
くだらない雑談をしながら……俺達は最寄りの駅に向かって歩く。図書室で通学路が混雑する時間を避けたので、周囲歩く生徒の数はまばらだが……俺は横目で隣を歩く二條紫を見てこっそりと溜息をついた。
(いくら混雑が避けられても肝心の二條に見つかったら意味が無いな……明日からはどうやって撒こうか……)
「……諦めないわ。だって慎太郎は私が初めて見つけた本物の魔法使いだもの……少なくともあたしにとってはね」
そんな決意表明もこれで何度目だったか……入学して僅か1ヶ月で随分と懐かれてしまったもんだ。
「……時間の無駄だと思うけどな」
俺は肩をひとつ竦めてから、改札へ通じる階段を足早に登った。二條は……いつも通り俺と遜色の無いスピードで階段を駆け上がってきやがる。
結局、今日も彼女を撒く事は出来ず一緒に下校する事になってしまったが……それも改札の向こうに渡りきるまでだ。まあ自宅の最寄り駅が逆方向だからな、さすがの二條も俺と同じホームに向かう訳にはいかない。
「ふん……諦めないって言ったでしょ。また明日ね!」
「まあ好きにするがいいさ……じゃあな」
俺達はこんな感じで……そのままそれぞれのホームに向かって別れた。
そして翌朝……
俺は待ち構えていた担任から……二條が昨日から行方不明になっている事を聞かされた。
――――――――――
「うっ……ん……」
朦朧とした意識の中で自身の呻き声がやけにクッキリと響く。それをきっかけにして……私は自分の覚醒が近い事を無意識に感じ取った。
ただ……意識の覚醒とは裏腹に、私の身体は“まるで泥沼の底に沈んでしまったのでは?”と疑うほど動いてくれない……
『……やあ。意識が戻った様だね』
なんとか開いた眼に映るのは……見覚えの無い天井?
(まずは……落ち着く事。そして周囲を観察する……天井がやけに低いわね。プレハブ……いやユニットハウスかしら?)
私は敢えて聞こえてきた声を無視し……本家で受けた拉致対応マニュアルに従い、落ち着きを取り戻す為のルーチンを実行する。
最低限の視線だけで捉える事が出来た情報は……自分が無人の部屋に寝かされている事。部屋は窓の無い簡素な作りで広さは八畳ほど……据付のベッド、小さな冷蔵庫、天井には小ぶりなスピーカーとその隣には広角カメラが光っている。恐らく出入り口であろうドアと……もう一つのドアは?
(トイレ? ユニットバス? ……長期の監禁も辞さないって事?)
『観察は終わったかな? 流石に傍流とはいえ二條家の令嬢……非常事態に対応する為の訓練は受けていると見える』
(これ以上の無視は……関係性の構築に悪影響が出るかしら?)
「私が傍流だというのを知っているなら……どうしてこんな手間暇を掛けて拉致したのかしら? もし二條本家への工作が目的なら私なんて攫っても無駄よ。それこそリスクパフォーマンスに見合わないわ」
私は……まだ反応の鈍い身体をなんとか起こして少しばかり探りを入れた。身体の反応はまだ少し鈍いが……目が覚めた以上思考を鈍らせていては生還は覚束ない。
『これはこれは……傍流とは言えさすが千年を数える王侯貴族の末裔だ。この状況でそこまで冷静な返答が返って来るとは思わなかったよ』
ボイスチェンジャーで変えてはいるけど……声の主は男性、この声の張りなら多く見積もっても40代ってとこね。言葉は明瞭だけど……イントネーションから生粋の日本人では無い可能性あり。ただ……
(ボイスチェンジャー? 私の知人なのかしら?)
記憶を探るが……男のイントネーションに該当する人物は思い浮かばない。改めてベッドの周囲を確認するが拉致された時に持っていた通学バッグは無かった。つまりバッグの中身もスマホも取り上げられているという事だ。
(落ち着いて……慎重に言葉を選ぶのよ)
「あら“お褒めにあずかって光栄”……とでも言えば満足かしら?」
もし“こういうの結構好き”と思って貰えたなら……
イイねでもブクマでも★でも……反応貰えたなら嬉しいです!
今後とも……是非よろしくお願い致しますm(_ _)m