魔法使い事始め……①
― Bowwor! ―
俺の前に……イメージ通りの火柱が吹き上がる。
「ヒッ……」
高校に入学してから初めての下校時間……その途中で絡んで来たのは、進学校であるはずの我が校には殆ど居ないはずの不良……とまでは言えないな。まあ、いいとこ問題児……って程度か。
中学からエスカレーターで進学出来る程度の小知恵は持ってる上に親がそこそこの金持ち。ガキの頃からタップリ甘やかされて育ったが……高校生にもなると嫌でも周りの人間が目に入って、自分には何一つ人に自慢出来る様な事が無いと気付く。
そうなると……だいたい反応は二つしかない。一念発起して自分を鍛えようとするか……現状で自分より下を探すか。
当然……俺にそんな馬鹿どもに付き合ってやる義理は無い。
「まったく……面倒くせえな。せめて相手を見てケンカを売れ。いいか? お前等はこれからは俺の顔を見つけたら全速力で逃げるんだ。もし俺の方がお前らを先に見つけたら……」
― Goowww!! ―
俺に絡んで来た奴等の目の上を……火柱が薙いで行く。馬鹿みたいに整えられたボッチャンどもの眉毛は……殆どが毛根ギリギリまで焦げて焼け落ちた。あっという間の出来事に身じろぎも出来なかった問題児達は、一瞬でヤンキーにふさわしい見事な眉なしヅラに変わってしまった。
「ああ!? くそ……このバケモノ野郎」
三人のリーダー格である男……名前何だっけか……が自分の眉の在った辺りを擦って罵声を上げた。
(へぇ……まだそんな口をきく余裕があるのか? 男の嫉妬は見苦しいって言うが……)
こいつらは……学外から入学してきた“外部進学組”の俺が、たまたま隣の席になった女子と喋っていたのが気に入らなかったらしい。まったく……そんなくだらない事で貴重な放課後を台無しにされたこっちの身にもなってみろ。
「そうか……気に入らねぇってんなら仕方ねぇ。お前ら全員……この場で灰にしてそこのドブ川に流してやる」
俺の人差し指の先に小さな光が灯る……光の正体は高温になり過ぎて白く輝く極小の炎。空気中にごく僅かに含まれる可燃性ガスや酸素を圧縮した気体が燃焼している姿だ。
「ああ……何なんだよお前は? どうしてそんな事が出来るんだよ?!」
軽く手を降った俺の指先から、超高温の小さな粒が……空気の壁に穴を開けてドブ川に落ちる。
これから何が起きるのか? 薄々気づいた一人が真っ青になっているが……
― Bohyu!! ―
俺の知ったことでは無い。
びっくりするほど小さな光の粒が水面に触れた途端……瞬間的に煮えたぎる水が、浅い川面から土砂と水を吹き飛ばした!
― Zabaan!! ―
「「「 ヒィ゙ヤーッ! 」」」
三人の同級生は……頭から臭いドブ川の水を盛大に被って悲鳴を上げた。俺は当然結果が分かっていたから結界を張っている。ヘドロとドブ水を頭から被った三人は這々の体で俺から後退りし……俺が追いかけないのを確認すると即座に走り出した。
「バケモノめ……覚えてろ!!」
……驚いた。あのセリフを本当に言うヤツが居るなんて……
「バケモノ……ね。確かに俺はバケモノかもしれんが……」
三人組は……時々躓きつつもなんとか肩を抱えあって全速力で逃げて行く。もしかして今日の事を誰かに話すかもしれないが……順当に行けば“ドブ川に落ちた馬鹿の戯言”で済むだろう……幸い証拠は何もない筈だ。
ただし……
「あなた……いったい何者なの?」
俺の後ろで目を丸くしている……たまたま隣の席になった例の女子生徒以外には……だが。
――――――――――
俺の名前は天草慎太郎。今年16歳になる男で、出身はN県。有名な活火山の麓にある海沿いの街が俺の故郷だ。
よく苗字から史実に登場する有名人との関係を想像されるのだが、全く関係の無い家系だという事は歴史上の記録によって証明されているので……初対面の人間が興味を抱いても即座に否定する事にしている。
俺は、たまたま地元では勉強が出来る方だったので、母親の実家のしがらみから、日本の最高学府である東京大学に“最も多くの卒業生を送り込む高校”を受験する事を勧められた。
「いいか……慎太郎の成績なら、たとえ相手がK高校でも確実に合格出来る! そのまま、お前が黒田の家の家督を継いでくれさえすれば……俺と母さんがなんとか維持してきたこの教会も黒田の家の援助で潰れなくて済むんだ!」
……我が親父ながら呆れた言い草だった。ちなみに、オフクロの実家は戦国の時代から続く名家で、祖父は未だに東京にかなりの土地とグループ企業を維持する資産家なんだが……よくこんな破戒僧との結婚を許したものだ。
「だって……お父さんったら放っといたらすぐに死にそうなんだもの。それに……ああ見えて神父としては有名なのよ?」
「……すぐに神に会いに行こうとするからじゃねぇよな?」
今のはただのジョークなんだが……どうして目を逸らしたんだオフクロ?
「……まあいいか。地元にそれほど執着があるわけでもねえしな」
……紆余曲折がありつつも俺は結局親父達の希望を受けて東京に進学する事になったんだ。
――――――――――
「慎太郎! ちょっとここの訳を教えてくれないかしら?」
「……もう少し声を抑えろ。ここは図書室だぞ」
そう言ってテキストを押し付ける様に俺の横に割り込んで来たのは、あの入学式の日にたまたま隣の席になった女子……二條紫だ。
「……なあ二條。そんなのは俺なんかに聞かなくてもG○○gle翻訳で一発だろ? 前にも言ったが……俺に関わるなって。ロクな事にならねぇからさ」
「だって慎太郎に教えて貰った方が絶対綺麗に訳してくれるじゃない! いったい……その歳でどうやったらそこまで語学に精通出来るのよ?」
「………さあな。とりあえず……」
俺は二條から英語のテキストを受け取ってG○○gle翻訳と全く同じになるように訳文を書き込んで彼女に渡した。
「これで良いだろ? それと……もう俺に弟子入りしたいなんて世迷言を言うのはやめな」
俺がそう諭すと……二條は学校でも一、二を争う整った顔を真っ赤に染めてテキストを受け取った。
「……イヤよ。私は絶対魔法使いに……本物の魔女になりたいのよ! 貴方みたいなね!!」
頼むから、そんなヤバい人みたいなセリフを大声で叫んでくれるなよ。こう見えても俺は……自他共に認める常識人なんだぞ?
「だから……さんざ説明したろ。俺のアレは魔法なんかじゃない……ってな」
そんな顔をするなって。俺だって自分の能力の心当たりなんか……ぐらいしか無いんだ。
「それって……雲仙岳の麓で見つけた変な石の事ね。どう見ても自然石なのに正四面体になってたっていう……」
もし“こういうの結構好き”と思って貰えたなら……
イイねでもブクマでも★でも……反応貰えたなら嬉しいです!
今後とも……是非よろしくお願い致しますm(_ _)m