右耳で眠ってた季節を揺り起こすよ
長かった髪をばっさり切った。
失恋したから、未練を断ち切るようにと、髪を切った。
淡い光が校舎を照らし、窓際の私の席に陽だまりを作る。
暖かな春の日差し。
授業をぼんやり受けて、休み時間にのびをする。
なにもかも色褪せて、世界はただ、ただ、ひたすらに優しく包む。
時計が進むのが緩やかで、なかなかこの時空から抜け出せない。
ぽろ。
涙がひとしずく流れていった。
「大丈夫?」
心配そうに、前の席のメガネ男子が振り向いて言った。
「だいじょう、ぶ……」
ぶわあ。
一陣の風が吹く。きらきらした光が差し込む。
ああ。
私の右耳で眠ってた季節が揺り起こされる!
世界が鮮明になり、時計の針が正常に動き始める。
前へ。
一歩。
「ありがとう。大丈夫だよ」
にっこり微笑んで、いつもの私に戻る。
「そう?よかった」
メガネ男子はドギマギしながら、前を向いた。
失恋の特効薬は、新しい恋だと聞いたことがある。
心が揺れる。
燃え上がる蜃気楼。
新しい世界を迎えた私は、また一つ大きくなり、人の強さを知った。