45.【幕間】あの日のこと
「へぇー、アンダーに"はぐれ"ねぇ……可哀想に……」
SOS配信で巨大蜥蜴に苦戦する蒼谷ミカゲの姿を暗い部屋で観ている白衣の女性がいた。
攻略者事務所墨田ドスコイズの代表、仁科揺だ。
(ん……? 東京プロモートのアルビオンが向かう……? これまた、悪運が強い奴だ。まぁ、それまで耐えられれば良いのだが……)
SOS配信に対して、救助表明が出され、仁科揺はぽけーとポテチを食べながらSOS配信を眺めていた。
しかし……
「ん……? …………んん!?」
次第に画面をめちゃくちゃ近づけ、食い入るように見始める。
画面の中の男……蒼谷ミカゲは宝物レベルの低そうな両手剣で巨大蜥蜴と戦っている。
案の定、巨大蜥蜴の堅い皮に弾き返され、ダメージは全く通っていないように見えるが、逆に巨大蜥蜴の攻撃をすれすれのところで避け、受け流し続けている。
(この宝物はアイロンソードか。宝物レベルはLv3であったはず……となると本人も宝物特性レベルは3か? だが……)
画面内の男はとてもレベル3とは思えない程、軽い身のこなしで、とても絶体絶命の状況に瀕しているとは思えない程に身体が動いていた。
(……こいつ)
「おっ……?」
その時、画面の中の男は両手剣を捨てて、落ちていた刀を拾う。
(え……? なんでそこに都合よく刀が……?)
揺は、ミカゲが巨大蜥蜴と遭遇する前に刀を入手しており、巨大蜥蜴と戦う直前に、その刀を捨てていたところを見てはいなかった。
それはそれとして……。
「っ……!」
刀を持ったことで、画面の中の男の動きは更に良くなる。
(あの刀は当然、覚醒前だよな……恐らく宝物レベルはレベル5相当……)
「……」
揺は画面を凝視し続けている。
巨大蜥蜴が身体を大きくひねり、尾による回転攻撃を加える。
画面の中の男はジャンプでそれをかわしつつ、すれ違いざまに尾にも一撃加える。
(うお、こいつ、避けるだけでなく、すれ違いざまに一撃、入れたぞ!?)
更に巨大蜥蜴の背中に飛び乗り、五月雨に数発の斬撃を加える。
(速い……)
巨大蜥蜴は怒るように暴れるが、画面の中の男はその前に背中から離れ、地面に着地する。
(レベル5相当の宝物で、巨大蜥蜴を完全に翻弄してる……)
しかし、巨大蜥蜴が強く息を吸い込みながら、身体を大きく仰け反る。
画面の中の男は巨大蜥蜴の直線上から逃れる。
が、巨大蜥蜴はそれを見越してか、ターゲットを深海と女の子へ変更するように頭の方向をずらす。
「あ……!」
揺は思わず声が出る。
画面の中の男は再度、巨大蜥蜴の直線上へと戻り、巨大蜥蜴の頭部方向に突撃していく。
(やばい……)
画面の中の男は仲間を助けるために、自分でも無理とわかっている行動に出ている。
(や、やめてくれ……もしかしたらコイツは……)
揺は一瞬、心臓を握りつぶされるかのような感覚に陥る。
今さっき、画面越しで知ったばかりの男に対してだ。
幸いにして、この時、東京プロモートのアルビオンのメンバーが助けに来てくれた。
「…………」
揺は一瞬、言葉を失う。
「全くひやひやさせやがって……もっと早く来いよ」
そんな憎まれ口を叩く。だが……。
「…………ありがとよ」
本音が漏れる。
そして、すぐに次の行動に移す。
「すまない、今日、アンダーでSOS配信してた遊撃者のこれまでの映像があれば提供してもらいたい。あぁ、そうだ。あるものは全て頼みたい」
遊撃者協会に問い合わせ、画面の中の男……蒼谷ミカゲの映像を取り寄せるのであった。
居ても立っても居られなくなった揺は取り寄せた映像をすぐに確認した。
(こいつ……本物だ……間違いない……蒼谷ミカゲ……私はきっとお前のことをずっと探していた)
……
TRRRRR
緊張しながら、電話をかける。
誠意を伝えるには他の誰かではなく、自分自身がもっとも良いと考えた。
『はい……蒼谷です』
「っ……!」
(……出た)
電話越しに、あの画面の中の男の声が聞こえる。
(絶対にスカウトを成功させる……! ファーストインプレッションは大事だぞ……)
『突然、申し訳ありません。こちら攻略者事務所の墨田ドスコイズです。こちら、蒼谷ミカゲさんの連絡先でお間違いないでしょうか?』
そうして、揺はめちゃくちゃ敬語になるのであった。
もしよければ評価をお願い致します。
また、作者の新作もお読みいただけると嬉しいです。
↓にリンクがあります。




