平凡な幸せ 7
「クソ!馬鹿が!」
ロイルは悪態を吐きながら、馬を走らせていた。
エリアスからの緊急の呼び出しで城に行ったロイルを待っていたのは、狂喜乱舞している王と、怯えるトルカナ、冷たい笑みを浮かべているエリアスの三人だった。
「ロイル、陛下が祝いの言葉をくださるそうだぞ」
エリアスの言葉に、ロイルは溜息を吐く。
呼び出し理由はやはりマリンの妊娠についてだったかと、ロイルはトルカナを睨み付けた。
王には子が生まれるまで知らせてはいけないとあれ程言ってあったのに、あっさりバラしたトルカナに、ロイルは怒りで身体を震わせた。
それでも人の目のある城で暴れる訳にもいかず、ロイルは王からの質問攻めにじっと耐えたのだった。
「人目さえ無ければ斬ったのに!」
物騒な事を言いながら、ロイルは愛する妻のもとへと急いだ。
そしてやっと着いた屋敷の門前で馬を降り、敷地内へと入る。
玄関ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。
ロイルが留守にする間、鍵をかける事はよくあるので、ポケットから鍵を取り出しドアを開ける。
「マリン!アン!」
大声で呼びながら、寝室や居間など捜すが、見つからない。
「・・・出掛けたのか?」
あまり体調のよくないマリンを連れて?
ロイルは眉を寄せ、外に出る。
庭に放ったままの馬に乗り、商店街へと向かった。
「マリンとアンを見ませんでしたか?」
しかし、店主達は首を振る。
仕方なくあちこち捜すが見つからず、まさかと思いながら、実家に向かった。
頭を下げる使用人の一人に、マリンが来たかと聞いていると、ロイルの母であるシアが階段を降りて来た。
「母さん、マリンとアンが来ませんでしたか?」
焦るロイルに、シアは優雅に微笑んでみせた。
「ええ。こちらにいらっしゃい」
ロイルはホッと胸を撫で下ろし、階段を上るシアに付いて行った。
しかし、シアが案内した居間には、マリンとアンの姿は無い。
「母さん・・・」
「いいから、ちょっと座りなさい。みっともなく焦った姿を晒して、まるでお父様のようですよ」
「―――――!」
トルカナのようだと言われ、衝撃を受けるロイルを、シアはソファーに座らせた。
「アンから、しっかりと説教するよう頼まれているのです。二人に合わせるのはそれからですよ。分かりましたね」
シアはニッコリと笑った。