表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/73

平凡な幸せ 6

 マリンとアンは居間でお茶を飲んでいた。

「やっと落ち着きましたわね。マリン様」

 ホッと息を吐きながら言うアンに、マリンが苦笑する。

 今朝早くエリアスの使いの者が来て、ロイルに至急城に来るようにと伝えたのだが、ロイルはマリンと離れる事を嫌がり、悶着を起こしたのだった。

「子供のように駄々をこねられて、困ったものですわ」

 結局、怒ったアンがロイルを追い出したのだ。

 アンの文句を聞きながら、マリンは一口お茶を飲んだ。

「本当に、マリン様にベッタリで、書斎は書類が山積みになっておりますのよ。仕事をしろと、言って下さいませ」

「・・・・・」

 カップを手に持ったまま俯くマリンに、アンが眉を寄せる。

「マリン様、疲れましたか?」

 マリンは首を振った。

 何か考えている様子のマリンに、アンも口を閉じる。

 暫く二人は静かにお茶を飲んでいたが、やがてマリンが小さな声でアンに問いかけた。

「『好きだ』って、『愛してる』って・・・本当かしら?」

 マリンがカップを握りしめる。

 アンはそっと溜息を吐いた。

 昨日アンが買い物から帰ると、厨房でロイルがマリンを抱きしめて、何度も愛を告白していた。

 床に転がる酒瓶に、何があったのかは想像がついたが・・・。

「私との子供なら、十人でも二十人でも欲しいって・・・」

 アンは苦笑する。

「極端ですわね」

「一からやり直したいって・・・。信じていいの?」

「そうですわね。今更そんな事言われても、信用出来なくて当然ですわ」

 アンはカップをテーブルに置き、指を組んだ。

「・・・不器用な人なのですわ。ロイル様は」

 顔をあげたマリンに、アンが微笑む。

「子供の頃は、厳しく育てられたようです。・・・お祖父様に」

「お祖父様・・・?」

「息子であるトルカナ様は、お祖父様の期待に応えられなかったのです。ところが生まれた孫達は、才能に溢れていた。お祖父様は宰相の仕事はトルカナ様に譲り、孫の教育に没頭した。特に類い稀なる剣の才能があるロイル様を、それは厳しく指導されたらしいですわ」

 アンが立ち上がり、マリンの手から落ちそうになっていたカップを取り上げ、テーブルに置いた。

「遊ぶ事も出来ず、勉強と鍛練の毎日で、感情を出すのが下手な子になってしまったと、シア様が嘆いておられました」

「お義母様が・・・」

 アンは笑う。

「まあその分、大きくなってから、色々遊びを覚えてしまわれたようですが」

「・・・・・」

「自分自身の気持ちにさえ、気付いていなかったのでしょうね」

 アンがマリンの隣に座り、マリンの手を握りしめた。

「わたくし、強くなりますわ。ロイル様がマリン様を泣かすような事がもう無いように、守りますから。だから・・・、少しだけ、信じてあげて下さい」

「アン・・・」

 マリンは俯き、唇を噛みしめた。

「・・・まだ、間に合うかしら」

「もちろんです」

 アンの力強い言葉と手の温もりに、マリンの瞳が潤む。

「アン・・・、お願いがあるの」

 マリンが顔を上げる。

 その表情は、晴れ晴れとしたものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ