平凡な幸せ 4
「あー・・・、マリンちゃん、体調が悪いのかい?」
「悪い。帰れ」
マリンをギュッと抱きしめるロイルに、エリアスの口元が引くつく。
「医者は?」
マリンが困ったように、少し笑う。
「大した事は無いの。ここ数日、少し熱っぽいだけで」
「熱・・・?」
眉を寄せ、マリンの額に触ろうとしたエリアスの手を、ロイルが叩き落とす。
「触るな」
過剰な反応に、エリアスは目を見開いた。
愛しげにマリンを撫でるロイルをじっと見て、不意に一つの結論に辿り着く。
「ああ!そうか」
頷くエリアスに、ロイルが眉を寄せる。
「何がだ?」
「自覚したのか。時間が掛かったが、まあよしとしよう。で、お前は初恋に浮かれているのか」
「・・・・・」
ロイルがスッと目を細めた。
「じょ、冗談だ」
シャレにならない殺気に、エリアスは慌てて手を振った。
それでも、弟が愛する人を見付けた事が嬉しく、顔がにやけてしまう。
「・・・アン、叩き出せ」
「いやいや、悪かった。ああ、そうだこれ。お土産」
エリアスが取り出したのは、マリンが好きなお菓子だった。
「はい、マリンちゃん」
一つ手渡してくるエリアスに、マリンは申し訳なさそうに眉を下げる。
「ん?どうしたんだい?」
首を傾げるエリアスから、アンが溜息を吐きながらお菓子を取り上げる。
「アン?」
「マリン様は、そこのケダモノの所為で、食欲がありませんの」
「ケダモノ・・・」
エリアスがロイルを見ると、ロイルはアンを睨み付けた。
「なんですの?」
アンも負けじとロイルを睨み付ける。
エリアスは、そんな二人の様子に呆気にとられる。
「どうなってるんだ・・・。ねえ、マリンちゃん」
疲れたように微笑み目を伏せるマリンに、エリアスは眉を寄せた。
「大丈夫かい?気分が悪いのかな?」
「ええ、少し」
「睡眠は?」
「ちゃんと寝てるわ。最近やたら眠くて、お昼寝もしてるの」
「・・・・・」
エリアスはマリンをじっと見て、アンを呼んだ。
「アン、ちょっと」
まだロイルと睨み合っているアンを手招きして、耳に口を寄せ囁いた。
「何やってんだ?兄さん」
エリアスの言葉に目を見開き、アンはマリンをチラリと見て首を振る。
エリアスは頷いて、マリンを見た。
「おそらく・・・、だがな。妻の時と様子が似てる」
「何がだ?」
少々苛ついているロイルに、エリアスは片眉を上げた。
「医者にみせろ。出来てるかもな」
「・・・・・」
『何が?』とは訊かなかった。
ロイルは目を見開き、意味が分かってない様子のマリンを見つめた。
「アン・・・」
「・・・はい」
ロイルはゴクリと唾を飲み込む。
「医者だ!医者を呼べ!」
「はい!エリアス様、早くして下さいませ!」
「え?私が?」
アンはエリアスの襟首を掴み、部屋の外に放り出した。
「・・・・・」
エリアスは廊下で暫し呆然とした後、溜息を吐いて歩きだす。
「違ったら、殺されるかも」
大騒ぎのロイルとアンの声を聞きながら、エリアスは階段を降りた。