平凡な幸せ 3
「お帰り下さい」
玄関ドアの前で仁王立ちするアンに、エリアスは唖然とした。
「え・・・?」
「この大事な時に、あなたに引っ掻き回されたくありません。帰って下さい」
「・・・・・」
エリアスは目頭を押さえ、ギュッと目を瞑ってから、もう一度アンを見た。
「アン・・・?」
「はい」
間違いなくアンだ。
決してよく似た別人ではないが、なんだか雰囲気が随分変わったような・・・。
エリアスはコホンと咳払いをして、気持ちを立て直した。
「あー、ロイルに会いたいのだが」
「駄目です」
「じゃあ、マリンちゃんに・・・」
「尚の事、駄目です」
「・・・・・」
少し会わない間に、いったい何があったというのか。
とっとと帰れと言わんばかりのアンの態度といい、何かあった事は確かなのだが・・・。
「少しだけ話をしたら、帰るから。マリンちゃんの様子を、陛下へ報告しなくてはならないんだ」
「元気だとでも言っておけば、よろしいのではありませんか」
「・・・アン」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・チッ」
「え!?」
エリアスは耳を疑った。
今、アンから舌打ちが聞こえたような気がする。
いや、まさか、そんな。
「分かりましたわ。でもマリン様は体調がすぐれないので、顔を見たら、すぐに帰って下さいませ」
アンはドアを開けて、さっさと自分だけ入って行く。
「・・・・・」
口元を引きつらせながら、エリアスは自分でドアを開け、客間まで行った。
そこで暫く待っていると、ロイルがやって来た。
「帰れ!」
「おいおい・・・。なんなんだこの扱いは」
エリアスは、こめかみに指を当て、溜息を吐く。
ロイルはソファーにドカッと座ると、エリアスを睨み付けた。
「忙しいんだ。兄さんに構っている時間は無い」
「何かあったのか?」
「兄さんには関係無い」
いつも以上に態度の悪いロイルに、エリアスは眉を寄せる。
「おい・・・」
その時、ノックの音がしてドアが開き、アンとマリンが入って来た。
ロイルが慌てて立ち上がり、マリンを抱き上げる。
「体調が悪いのだから、寝ていなさい。兄さんなら、今すぐ追い出すから」
「おいおい・・・」
「大丈夫よ」
ロイルは眉を寄せ、マリンを抱いたまま、そっとソファーに座った。
マリンの髪を手で梳き、頬にキスをする。
「気分が悪かったら、すぐに言うんだぞ」
「・・・ええ」
ロイルは優しく微笑み、マリンの頬に、またチュッチュッとキスをする。
「・・・え?なんだ、ロイルまで・・・」
まるで別人のようなロイルに、エリアスは呆然とした。