平凡な幸せ 2
マリンはベッドに横になり、じっと壁を見ていた。
身体が怠い。
それ以上に、・・・胸が苦しい。
どうして、こんな事になってしまったのか。
いや、分かっている。
自分が望んだからだ。
あの人と一緒にいる事を・・・。
「マリン様・・・」
聞こえた声に視線を向けると、アンが居た。
「ノックをしたのですが、返事が無かったので・・・」
アンはベッドに腰掛け、マリンの頭を撫でた。
「身体は、辛いですか?」
「・・・・・」
返事をしないマリンの頭を、何度も撫でる。
暫くすると、ようやくマリンが口を開いた。
「アン・・・」
「はい」
アンが微笑む。
「・・・『魔法の粉』をちょうだい」
「・・・・・」
縋るような視線を向けてくるマリンの頬に、アンは触れた。
「あれは、愛し合う二人には、必要無い物なのですよ」
妊娠を恐れ、壊れかけたマリンに、アンが渡した薬・・・。
「ちょうだい」
「マリン様・・・」
アンがマリンの手を握る。
「いいのですよ、子供が出来ても。ロイル様はマリン様が好きなのです。今は子供も望んでおられますわ」
「嘘よ」
「アンはマリン様に嘘など申しません」
「『子供なんて絶対要らない』って言ってたわ。『あんなうるさいだけの存在、どこがいいんだか分からない』って。子供なんて出来たら私、嫌われてしまうのよ」
「過去の話ですわ」
内心ロイルに怒りながら、それでも笑顔でアンは答えた。
「私を抱きながら呟くの。『この女、身体だけは最高だな』って。だから、抱けない状態になったら、捨てられてしまうわ」
「・・・・・」
アンはドアの方に目を向け、隙間から室内を覗いているロイルを、燃えるような瞳で睨み付けた。
「・・・過去の話ですわ」
アンはマリンに視線を戻し、微笑む。
「今はマリン様を、本当に愛しているのですよ。信じてあげて下さい」
「アン・・・」
「さあ、少しお休み下さい」
澄んだ声で、アンが歌いだす。
マリンは目を閉じてそれを聞いていたが、一曲終わったところで、アンに話し掛けた。
「ねえ、・・・一緒に寝て」
アンは目を見開く。
「わたくしが・・・、ですか?」
マリンが頷く。
アンは少し考えて、マリンの隣に寝転んだ。
「・・・胸が苦しいの」
「マリン様・・・」
マリンがアンの手を握る。
「アンは・・・、今は好きな人はいないの?」
マリンは以前、アンに好きな人が出来たと思っていた。
しかし、それから暫くしてロイルから、二人は別れてしまったのだと聞いたのだ。
「・・・・・」
アンは目を閉じて細く息を吐くと、目を開けて微笑んだ。
「わたくしは、いません」
「・・・そう」
アンの笑顔が辛そうで、マリンは訊いてはいけない事だったのだと後悔した。
「わたくし、マリン様には、幸せになってもらいたいのです」
アンがマリンを抱きしめる。
「絶対に、幸せに・・・」
「アン・・・」
アンの温もりに包まれて、マリンは眠りに落ちていった。