聖女マリアンヌ 14
目が覚めると、一人だった。
身体に残る違和感と痛み。
指一本動かしたくなくて、また目を閉じる。
―――――トントン・・・
小さなノックの音がしたが、マリアンヌは返事をしなかった。
ドアが静かに開けられ、誰かが入って来る。
「マリアンヌ様・・・」
アンの声に、マリアンヌは目を開けた。
アンがそっと、マリアンヌの額に手を当てる。
「・・・お身体は、辛いですか?」
微かに唇を上げ笑うマリアンヌに、アンの顔が曇る。
マリアンヌの身体を抱き起こし、コップに入った水を飲ませた。
「身体をお拭きします」
サイドテーブルに置いてあった布と湯で、アンはマリアンヌを丁寧に清める。
綺麗になると、新しい夜着を着せ、シーツも交換した。
「今日は、ゆっくりとお休み下さい」
アンがマリアンヌの傍らに座り、手を握りしめる。
歌い始めたアンを、しかしマリアンヌは遮った。
「・・・ロイルは?」
アンが目を伏せる。
「書斎で・・・、お仕事をされています。お呼び致しますか?」
マリアンヌは小さく首を振った。
アンがマリアンヌの髪を撫でる。
「ねえ、アン・・・」
「はい」
マリアンヌは微笑む。
「わたくし、あの人が好きなの」
「・・・はい」
「好きなの」
「・・・・・」
アンがマリアンヌを抱き締める。
「ロイルはいつか、わたくしの事を愛してくれるかしら?」
偽りの言葉ではなく、心から―――――。
マリアンヌの頬を、涙が伝った。