聖女マリアンヌ 13
馬に揺られながら、突然マリアンヌは思い出した。
ロイルに初めて会った日、王は何と言ったか。
『準備が整った』
何の?
贈られた本、不自然な外出、仕事、演出、別人のようなロイル・・・。
ああ、そうだったのか。
自分は物語の主人公になっていたのか。
甘い甘い、恋物語の主人公に。
今更ながら気付いた事実に、笑いたくなる。
しかし出たのは笑い声ではなく、涙だった。
街は人が溢れ、騒がしかった。
「祭りですよ。聖女様の誕生を祝う・・・ね」
マリアンヌの耳元に、ロイルが囁く。
・・・ごめんなさい。
マリアンヌは心の中で謝り、ギュッと目を閉じた。
程なくして着いたのは、こぢんまりとした屋敷。
門を開けたのはアンだった。
ロイルは馬から降り、マリアンヌを腕に抱く。
アンが馬を小屋に連れて行った。
「ここが今から、あなたの住む屋敷です」
ロイルが屋敷の入り口に向かい、馬を繋いで帰ってきたアンがドアを開けた。
二階に上がり入った部屋は、寝室のようだ。
「あの、ロイル様!」
アンがロイルの背中に声を掛ける。
「どうか・・・、優しくなさって下さい」
ロイルが溜息を吐く。
「・・・ああ」
アンが頭を深く下げ、ドアを閉めた。
ロイルはマリアンヌをそっとベッドに降ろし、頬を撫でる。
「今からあなたは俺の妻です。名前は・・・マリー、いや、マリンにしましょう。『マリン・ウェルター』。いいですね」
「ウェルター・・・」
宰相と同じ。
ロイルはマリアンヌの呟きの意味を理解し、片眉を上げた。
「ええ。アレは俺の父です」
「・・・・・」
俯くマリアンヌの顎を指で上げ、ロイルは優しく微笑む。
「マリン、愛してますよ。俺の可愛い奥さん。さあ、一つになりましょう」
「一つ・・・?」
「ええ、そうです。ここで・・・」
ロイルの手が、マリアンヌの下肢に伸びる。
「ここで男女は一つになるんですよ。そうして、子供が出来るのです」
「子供・・・」
要らないのに?
「身体の力を抜いて、俺に任せて下さい」
ロイルの唇が、マリアンヌに近付く。
「大人のキスを、しましょうか」
二人の身体が重なった。




