聖女マリアンヌ 12
身体を揺さ振られ、マリアンヌは目を覚ました。
「アン・・・?」
眩しい。
目を手の甲で覆うと、光が遠ざかった。
何度も瞬きをするマリアンヌの耳に、フッと息が掛かる。
「お迎えにあがりましたよ。マリアンヌ様」
「―――――!!」
マリアンヌは驚きに目を見開き、身体を起こす。
そこには愛しい男の姿があった。
「ロイル・・・」
呟くマリアンヌに口角を上げ、ロイルは右手を差し出す。
「最後の選択です。決められた通り塔に入るか、王と国民を裏切り俺と逃げるか。どちらにしますか?」
「・・・・・」
マリアンヌは、ロイルの手をじっと見つめた。
答えなど、決まっている。
マリアンヌは左手を、ロイルの右手の上に置いた。
ロイルが深い溜息を吐く。
「・・・あー、はいはい、そうですか。分かりました。分かりましたよ」
投げ遣りに呟くと、ロイルはマリアンヌの身体を持ち上げ、ベッドの脇に立たせた。
そして片膝を付き、マリアンヌの手を握りしめる。
「マリアンヌ様、愛しています。地位も身分もありません。明日の食事さえままならない。そんな私でも、一緒に来てくれますか?」
芝居掛かった台詞―――――。
それでもマリアンヌは頷いた。
「・・・はい」
「・・・・・」
ロイルは立ち上がると、マリアンヌの手を引き大股に歩く。
外に出ると、もう夜になっていた。
そこからあの秘密の道とは又別の道を通り、二人は厩舎の前に来た。
「馬に乗って逃げましょう」
その時、厩舎の中から突然人が飛び出して来た。
マリアンヌが驚き飛び上がる。
「おおー!マリアンヌ、行ってしまうのかい!!」
王が大きく手を広げる。
マリアンヌは呆然として呟いた。
「お父・・・様?」
「いやいや、何も言うな。分かっているよ。その男と愛し合っているのだろう?」
王が厩舎から、漆黒の毛の馬を一頭出す。
「余の愛馬、ジョニーに乗って行くがよい。後の事は何も気にするな。『聖女』は祈りの塔に居る」
ロイルが王から手綱を受け取りヒラリと乗る。
「さようなら愛しい娘!」
王はマリアンヌを抱き締め、その手にそっと鍵を握らせた。
マリアンヌが驚く。
それは王が以前何度か見せて説明してくれた、王の部屋と外を繋ぐ、秘密の地下道の鍵だった。
王はマリアンヌの耳元で囁く。
「でも、たまには顔を見せに帰って来ておくれ」
呆然とするマリアンヌをロイルが呼ぶ。
「マリアンヌ様、行きますよ」
王がマリアンヌの背中を押し、ロイルが馬上に引き上げる。
「さあ行け!幸せの地へ!」
王の言葉と同時に、馬が駆け出した。