聖女マリアンヌ 11
「マリアンヌ様ー!!」
「マリアンヌ様ー!!」
真っ白なドレスとベール姿のマリアンヌが、歓声をあげる人々に手を振る。
顔が見えなくて良かった。
もし国民が今のマリアンヌの表情を見たら、きっと落胆するだろう。
「マリアンヌ様、そろそろ戻られてよいです」
宰相の言葉に頷き、マリアンヌはバルコニーから室内へと戻った。
塔に入る前日である今日、これは国民との別れの儀式であった。
「これで儀式はすべて終了致しました。お部屋にお戻りになって結構です。明日早朝、お迎えにあがります」
マリアンヌは頷き、バルコニーを見る。
そこでは王がまだ国民に向けて手を振っていた。
そして、周りにいる護衛の中に、ロイルの姿は無い。
ロイルはあれから一度も会いに来ない。
捨てられたという思いと、もしかしたらまだ迎えに来てくれるかもしれないという思いが混ざり、マリアンヌの胸を掻き乱していた。
「マリアンヌ様・・・」
遠慮がちなアンの声に、マリアンヌはハッと気付き、歩きだす。
もう一度バルコニーを見ると、王がピョンピョンと跳ね回りながら国民に両手を振っていた。
自分が聖女として塔に入るのが、そんなに嬉しいのだろうか・・・。
絶望的な気持ちになり、マリアンヌは俯いて足を速める。
離れに着くと、マリアンヌは崩れるように、ソファーに身体を沈めた。
「マリアンヌ様、少しベッドでお休みになられては、いかがでしょうか」
「・・・そうね」
頷くマリアンヌをアンは寝室に連れて行き、薄い夜着に着替えさせる。
マリアンヌがベッドに入ると、アンは傍らに座り、そっと手を握りしめた。
あの出来事があってから、アンは今までが嘘のように、何度もマリアンヌに話し掛けたり、こうして暖かい気遣いを見せるようになった。
母である王妃は、弟が生まれてすぐに亡くなってしまったが、もし生きていればこんな感じだったのだろうかと、マリアンヌは思った。
結局、ロイルの言葉の意味も、行動の意味も、よく分からなかった。
一度だけ、アンにロイルの事を尋ねたが、只ひたすら謝られただけであった。
アンが静かに歌いだす。
ああ、綺麗な声・・・。
マリアンヌは目を閉じ、眠りに落ちた。