聖女マリアンヌ 10
ロイルの肩の上で、マリアンヌは呆然と、只揺られていた。
何故こんな事になっているのか、まったく分からない。
暫くすると、アンの声が聞こえた。
「ロイル様・・・!」
「マリアンヌ様ならコレだ」
マリアンヌの尻がポンと叩かれた。
「居なくなった事、誰かに言ったか?」
「いいえ、まだ」
「それでいい」
・・・まるで以前からの知り合いのような会話。
二人は一度しか会った事が無い筈なのに。
マリアンヌの知らないところで、何が行われているというのか。
「―――――!!」
身体を打つ衝撃に、マリアンヌが驚く。
戻る光は、ロイルがマントを取り払ったからだ。
瞬きを繰り返し気付いた。
ソファーの上に投げ落とされたのだ。
ロイルはマントをクルクルと纏めて片手に持つと、マリアンヌを一瞥する事さえせずに、踵を返す。
その背中が拒否しているように見え、二度と会えないのではないかという恐怖が、マリアンヌを襲う。
気が付けば駆け出し、ロイルの広い背中にしがみついていた。
「待って!行かないで!」
ロイルの歩みが止まる。
「わたくしも・・・、連れて行って!」
すべてを捨てる覚悟の告白。
しかしそれに返されたのは、深い溜息だった。
ロイルは振り向くと、片眉を上げる。
「俺に付いて来る?王を捨てて?」
ロイルの言葉に、マリアンヌが震える。
「・・・ええ」
「国民の期待を裏切って?」
「・・・連れて行って」
「・・・・・」
ロイルはじっとマリアンヌを見つめながら、アンに命じた。
「アン・・・、下がれ」
ロイルの纏う危険な雰囲気に、アンが躊躇する。
「ロイル様・・・」
「下がれ」
もう一度命じられ、アンは頭を下げて部屋から出て行く。
ドアが閉まると同時に、ロイルはマリアンヌを持ち上げ、ソファーに投げた。
先程より更に強い衝撃に、一瞬息が詰まる。
そんなマリアンヌの肩をを、ロイルはソファーに押し付けた。
ビリビリと破られるドレス。
外気に晒された肌を、ロイルの唇が這う。
何をされているのかマリアンヌには分からず、だけど身体の奥から湧き上がってくる熱に戸惑った。
ロイルの指が下肢へと伸び、走った痛みにマリアンヌは眉を寄せる。
「・・・抵抗もしないのか。本当に無垢で無知だな」
言われた言葉の意味も分からぬ様子のマリアンヌに溜息を吐き、ロイルは立ち上がる。
床に落ちたマントを拾い、ドアに向かう。
「もっと、疑いなさい」
振り向きもせず告げると、ロイルは部屋から出て行く。
入れ違いに入って来たアンが、悲鳴をあげた。
「どうしてロイル様・・・!こんな、酷い、酷い!」
泣きながら頬を撫で、髪を梳く。
何故アンは泣いているのだろう・・・?
そしてロイルは何を言っているのか。
マリアンヌは、ロイルが出て行ったドアを見つめる。
「わたくしを、連れて行ってはくれないの・・・?」
呟いたマリアンヌを、アンは強く抱き締めた。