聖女マリアンヌ 9
首筋に冷たい感触―――――。
マリアンヌはビクリと身体を震わせ、顔を上げる。
そこには、目を見開いたロイルの姿があった。
「・・・どこの命知らずが盗み聞きしているのかと思ったら、まさかあなただったとは」
ロイルはマリアンヌの首筋に押し付けていた剣を鞘に戻し、溜息を吐いた。
「こんなところまで来るとは予想外だ。危うく殺すところだった」
呆然とするマリアンヌの顎を掴み、ロイルは口端を上げる。
「あの道を抜けて来たのですか?ベールもかぶらず、掟を破って。そんなに俺に会いたかったのですか?」
まるで別人のように冷たい目。
「ロ・・・イル・・・?」
確認するように呟くマリアンヌに、ロイルはクスリと笑った。
「はい、何ですか?」
マリアンヌはカラカラに渇いた喉をひくつかせた。
聞きたい事は沢山ある筈なのに、何を言えばよいのか分からない。
「どうしました?言いたい事があれば、遠慮なく言って下さい」
からかうような口調。
マリアンヌはヒュッと息を吸い、言葉を絞り出した。
「・・・結婚・・・するって・・・誰と?」
声が震える。
「・・・・・」
ロイルは唖然として、マリアンヌの顎から手を離した。
「・・・そう来ましたか」
深い溜息を吐き髪を掻き上げ、蔑んだ視線をマリアンヌに向ける。
「親子揃って・・・」
ロイルは肩からマントを外すと、マリアンヌの頭にかぶせた。
「―――――!」
驚き肩を竦めたマリアンヌを、マントで包む。
「離れに帰りますよ、お姫様」
ロイルはマリアンヌを荷物のように乱暴に肩に担ぎ、歩きだした。




