聖女マリアンヌ 7
塔に入る日まで、一週間を切った。
「・・・・・」
マリアンヌは迷っていた。
このまま決められた通り塔に入るか、それとも・・・。
いけない事だと分かっている。
しかし、ロイルと一緒にこの優しい牢獄から逃げるという魅力に、マリアンヌの心は揺れていた。
溜息を吐いて窓の外を見る。
もうすぐ日は沈み、闇が来る。
そして・・・、ロイルは今日も来なかった。
もう五日、会っていない。
どうして・・・。
三日以上開いた事など無かった。
まさか、ここに来る途中、捕まったのでは・・・。
二人の関係は秘密。
誰にもロイルの無事を訊く事は出来ない。
マリアンヌは目の前の、冷めた紅茶を一口飲む。
会いたい。
ロイルに会いたい。
ここを抜けて、ロイルのもとに・・・。
会いに・・・行く?
マリアンヌは自分の考えに、震えた。
ここから一人で出た事など無い。
見張りだって居る。
でも、ロイルが使っている道を使えば・・・。
「・・・・・」
少しだけ。少しだけあの道を行き、ロイルが見つからなければ諦めて帰ろう。
「アン・・・」
マリアンヌの声に、壁際に座っていたアンが、立ち上がる。
「はい」
マリアンヌは、震える指に気付かれぬよう両手をギュッと握り締め、平静を装いアンに命じた。
「お茶が冷めてしまったわ。淹れ直してちょうだい」
「はい」
アンがティーカップを持って、部屋から出ていく。
「・・・・・」
マリアンヌはそっと立ち上がり、窓を開けた。
厨房からは、あの道は死角になる。
今しかない。
マリアンヌは窓枠に足を掛け、外に出た。
ロイルが通っている、狭い、木々の間の道に思い切って入る。
小枝がドレスの裾を切り裂くが、マリアンヌに気にする余裕は無かった。
ロイル・・・、ロイル・・・。
ただひたすら真っ直ぐ進み、気が付けば道を抜けていた。
目の前の壁は、城だろう。
「・・・・・」
帰った方がいいのは分かっている。
だけど、もう少しだけ・・・。
右と左、どちらに行くか迷って、マリアンヌは左に歩きだす。
そうして暫く進んで行ったが、ロイルどころか、人にさえ会わなかった。
「・・・・・」
もうここまでだ。
アンはマリアンヌが居ない事に、もう気付いているだろう。
もしかすると、騒ぎになっているかもしれない。
溜息を吐き、踵を返そうとした時・・・。
「―――――!」
話し声が聞こえた。
「・・・か・・・ロイル・・・」
ロイル!確かにロイルと言った!
マリアンヌは駆け出したい気持ちを堪え、植え込みに隠れながら、そっと声のした方へ歩いた。