聖女マリアンヌ 3
男は驚くマリアンヌを軽々と抱き上げる。
「あっ!」
そして湖から少し離れると、男は肩からマントを外して地面の上に敷き、その上にマリアンヌをそっと下ろした。
「私はロイル。お嬢さんは?」
「あ・・・の・・・」
マリアンヌは真っ赤になって俯いた。
こんなふうに若い男と接する事など初めてなのだ。
しかも、その逞しい腕に抱き上げられるなど、まるで今朝読んでいた物語のようだとマリアンヌは思った。
ロイルはクスリと笑うと、マリアンヌの横に座った。
そのあまりに近い距離に、マリアンヌが硬直する。
ロイルはマリアンヌの髪に触れ、微笑んだ。
「綺麗な髪ですね。こんなに見事な黄金の髪を見るのは、初めてです」
その言葉でハッと気付く。
ベールをしていない。
しかも声を出してしまった。
焦るマリアンヌに、ロイルが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
こういう時はどうすればいいのだろうか。
走って逃げるべきか、いや、でも・・・。
その時、ロイルが溜息を吐いて髪から手を離した。
「すみません。あまりに綺麗だったので、触れてしまいました。会ったばかりなのに、失礼でしたね」
「あ・・・」
離れていく手に、マリアンヌは何故か寂しさを感じ、思わず引き止めようと、ロイルの袖を掴んだ。
ロイルは一瞬目を丸くしたが、戸惑うマリアンヌの様子に微笑み、二人の指を絡める。
「ここにはよく来るのですか?」
繋がった指に、マリアンヌは堪らない恥ずかしさを感じ、返事など出来ない。
「私はたまに来るのですよ。この美しい湖を見ていると、仕事の疲れも吹き飛びます」
マリアンヌはロイルの着ている白い制服をチラリと見る。
これは確か・・・。
「私は第一騎士団に所属しているのです」
ああ、そうだわ。
マリアンヌは思い出した。
王の護衛を専門とする、第一騎士団の制服だ。
優秀な者しか入れない騎士団の中で、更に上位の者だけが集まった第一騎士団。
以前城に行った時、王の護衛がこの制服を着ていた。
「それにしても、今日の私は運がいい」
「・・・・・?」
ロイルが繋がった指を、軽く引く。
「あっ・・・」
マリアンヌの身体が、ロイルの胸に倒れる。
ロイルはマリアンヌの顎を空いている方の指先で掬い、唇が触れる寸前まで互いの顔を近付けた。
「こんなに素敵な女性と出逢えるなんて」
目を見開き固まるマリアンヌに笑い、ロイルは立ち上がる。
「あちらにボートがあるのですが、一緒に乗りませんか?」
ロイルが掌を差し出す。
マリアンヌは無意識に、その手に自分の手を重ねた。