嘘と真実 ⑧
眠るマリンの髪を、ロイルが撫でる。
一度自分の気持ちに気付くと、マリンが愛しくて堪らなかった。
「可愛い顔が、台無しだな」
涙と鼻水で赤く腫れた顔に触れる。
今回の騒動では、勝手に父親にされ、酷い目に遭ったと思っていたが、こうして大切な存在に気付く事が出来、今ではナタリに感謝したいくらいだ。
その時、遠慮がちなノックの音がして、水差しを持ったアンが静かに入ってきた。
アンはベッドの脇に立つと、コップに水を注ぎ、ロイルに渡した。
ロイルがそれを一気に飲み、コップをアンに返す。
頭を下げ、部屋から出ていこうとするアンを、ロイルは呼び止めた。
「はい?何でございますか?」
アンは内心とても驚いていた。
行為の後のロイルは冷たい。
声を掛けられる事など、滅多にないのだ。
「マリンの飲んでいる薬を、処分しておいてくれ」
アンは戸惑い、視線を泳がせた。
「何の事でございましょう?」
「マリンが飲んでいる、避妊薬の事だ」
「・・・・・」
ロイルの厳しい視線に言い逃れ出来ないと分かると、アンは溜息を吐いた。
「・・・知ってらしたのですか」
「ああ。あれはもう、必要ない」
「それは・・・」
ロイルは自嘲的に笑うと、マリンの髪を愛しげに撫でながら答えた。
「どうやら俺は、マリンの事が好きらしい」
突然の告白に、アンは唖然とする。
暫しロイルとマリンを眺め、真実だと理解すると、フッと肩の力を抜いた。
「そうですか。それは・・・、ようございました」
「ああ」
「賑やかになりますわね」
「そうだな」
アンは深く頭を下げると、静かに部屋を出て行った。
「マリン・・・」
ロイルがマリンを抱き締める。
優しい妻と、可愛い子供達に囲まれた、平凡な人生―――――。
この女とならば、それもいい。
ロイルは幸せを噛みしめながら、静かに目を閉じた。