嘘と真実 ⑦
軽くノックをして、ロイルはドアを開けた。
初めて入る、マリンが子供達の為に用意した部屋―――――。
沢山の玩具に、ロイルは苦笑する。
「マリン・・・」
ベッドに呆然と座っているマリンの隣にロイルは腰掛けた。
「寂しいですか?」
「・・・・・」
反応を返さないマリンをチラリと見て、ロイルは足元に転がる玩具を拾い、壁に、思いきり投げつけた。
「―――――!!」
バラバラになり飛び散った玩具のもとにマリンは走り、床に這いつくばって、欠片を一つ一つ拾う。
そして、最後の欠片に手を伸ばした時、その欠片をロイルが踏んだ。
グシャッという音と共に粉々に砕け、マリンの指は、行き場を失う。
「楽しかったですか?家族ごっこは」
俯くマリンの髪を掴み、無理矢理上を向かせる。
「まるで本当の母親のようでした。可愛い子供達でしたね。あなたが手放したくなくなるのも、当然かもしれません」
ロイルはマリンを抱えると、ベッドに連れて行く。
「続ける事が出来なくて、残念でしたね」
唇を噛みしめて、涙を堪えるマリンの耳に唇を寄せ、ロイルは囁く。
「でも、俺達の子供は、きっともっと可愛いですよ」
ロイルの言葉に、マリンが目を見開く。
「男の子なら、剣を教えましょう。俺の子供ですから、国一番の騎士になること間違いなしですよ」
マリンは戸惑い、ロイルの顔を見た。
「な・・・にを、言ってる・・・の?」
ロイルは目を細め、続ける。
「女の子なら、マリンに似て、美しい子でしょうね。寄って来る男共を追い払うのに、苦労しそうです」
「やめて!!」
マリンが両手で耳を塞いだが、ロイルはその手を耳から引き剥がした。
「天気のよい日は、庭でアンの作ったお菓子を食べましょう。お弁当を持って、遊びに行って、一緒のベッドで眠って・・・」
「やめて!やめて!!」
「子供達は、優しく綺麗な母親を、皆に羨ましがられるでしょう。だから―――――」
暴れるマリンをベッドに押し倒す。
「だから、薬を飲むのは、もうやめなさい」
「―――――!!」
マリンの動きが止まる。
目を瞠り、信じられない思いで、マリンはロイルを見た。
知っていたのだ、この人は!
ロイルの唇が、マリンの首筋を這う。
「嫌!やめて!」
ロイルはマリンの手を、頭上で一つに纏めた。
「嫌!嫌!!」
「欲しいでしょう?俺の子が」
抵抗するマリンを、力でねじ伏せ組み敷く。
泣き叫ぶマリンを見ながら、ロイルは不意に気付いた。
そうか、そうだったのか。
何故、笑顔にときめいたのか。
何故、嫌いな子供を作ろうと思ったのか。
俺は、この女が・・・。
「好きなんだ」
口に出してみれば、素直に納得出来た。
「好きだ、好きなんだ」
マリンの心に届くよう、ロイルは言葉に精一杯の気持ちを込める。
「好きだ・・・、マリアンヌ」
マリンの抵抗が、ピタリと止まる。
揺れる瞳を間近で見つめ、ロイルはもう一度告げた。
「俺はお前が好きなんだ」
「・・・・・」
マリンの瞳から大粒の涙が溢れ、零れる。
ロイルはマリンをギュッと抱き締め、初めて気持ちが通じ合ったと思った。
「・・・嘘吐き」
しかし、聞こえた呟きに、ロイルは身体を強ばらせる。
「嘘吐き。嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き」
「違う」
「あなたはいつも、嘘ばかり」
「マリン・・・!」
ロイルの手がドレスを引き裂く。
マリンは抵抗しない。
性急に繋がろうとするロイルに悲しみを抱きながら、マリンは静かに目を閉じた。