嘘と真実 ⑥
子供達が庭で遊ぶ。
「おはなー、おはなー」
「はいはい。アン、一本貰うわね」
マリンは花壇の花を一本手折り、サーシャに渡す。
花を振り回し喜ぶサーシャに、マリンが微笑む。
ユーイが蝶を追い掛け転ぶ。
「ああーっ!」
泣くユーイをロイルが抱き上げ、マリンに渡す。
「よしよし、いい子ね」
とても穏やかで幸せな、家族ごっこ。
ロイルが目を細め、マリンの髪を撫でた。
「かあしゃま!!」
聞こえたサーシャの声に、マリンが振り向く。
「なあに?」
しかし、サーシャが見ているのはマリンではない。
「―――――!!」
マリンの身体がビクリと震え、砕け落ちそうになるのをロイルが支える。
「かあしゃま!!」
腕に抱いたユーイが藻掻く。
強く抱き締めるマリンの腕から、ロイルがユーイを取り上げ地面におろす。
子供達は、門の外に立つ女性の元に、一直線に走って行った。
「アン、門を開けて彼女をこちらに」
「は、はい」
「駄目!嫌!」
叫ぶマリンをロイルが抱き締める。
アンは戸惑いながらも、ロイルの指示通り、門を開け女性を招き入れた。
「お久しぶりです。ロイル様」
微笑む女性からは、甘い独特の香りがした。
ロイルは一瞥しただけでそれには答えず、震えるマリンの肩を抱き、屋敷の中へと入る。
「どうぞ、こちらへ」
アンが女性を促し、客間へと移動する。
ロイルはソファーに座ると、開口一番述べた。
「その子達は、私の子ではありませんね。モルドさん」
質問では無く、事実の確認。
女性―――――、『ルル』こと、ナタリ・モルドは、苦笑して答えた。
「はい。この子達は、シバリエ伯爵との子供です」
マリンが驚いてロイルを見上げる。
「私とモルドさんが初めて会った頃、子供達は既に生まれていましたから」
先日後を付けてきた男を捕らえ、そこから辿り着いたのは、シバリエ伯爵家だった。
シバリエ家は、長男と次男の間で家督争いが激化しており、長男の愛人であるナタリと子供達にまで、その火の粉が降り掛かってきていたのだ。
「わたくしの力では、子供達を守る事が出来なかったのです。申し訳ございませんでした」
普通に頼んでも助けて貰えないので、こんな手段を使った。
ナタリはそう言うが、その後ろに見える、『あわよくばシバリエの愛人からウェルターの愛人に』という打算に、ロイルは反吐が出る思いだ。
「『ルル』なんて書かれても、誰か分からず困りましたよ。さて、事態は収拾したようですね。子供達を連れて、お引き取り下さい」
シバリエ家の争いは、次男の『急死』により幕を閉じた。
さっさと帰れというロイルの態度に、ナタリはこれ以上居ても何も得られないと判断し、子供達の手を握り、立ち上がろうとした。
「ま、待って!嫌よ!その子達を置いて行って!サーシャもユーイも、もううちの子なのよ。勝手に連れて行かないで!」
ナタリが目を瞠る。
ロイルはそっと溜息を吐き、マリンを優しく抱き締め、髪を撫でた。
「マリン、子供は母親と暮らすのが、一番幸せなんです」
「・・・・・!」
マリンが子供達を見る。
二人共、ナタリにべったりとくっ付いている。
マリンは唇を噛みしめ、部屋を飛び出した。
「・・・奥様は、随分この子達を可愛いがって下さったのね。あなたが田舎貴族と駆け落ち同然で結婚したと聞いた時は、本当に驚いたけど―――――」
「へえ、そんな噂が広まっていたのですか」
ナタリの言葉を遮り、ロイルは目を細め、口端を上げた。
「今は私の妻です。侮辱する事は、許しませんよ」
ロイルの冷たい表情と言葉に、ナタリがビクリと震える。
「私は、あなた方がどうなろうが、構わないのです。だけど妻がその子達を可愛がるから、仕方なく面倒を見てあげたのですよ」
ロイルは立ち上がり、ドアの前に行く。
「帰れ。そして二度と俺に関わるな。でなければ、お前達も『急死』する事になるぞ」
「―――――!!」
ロイルの本気を感じ取り、ナタリは子供達を抱え、転がるようにして、屋敷から出て行った。