嘘と真実 ⑤
マリンと子供達が、遊具で遊んでいる。
少し離れたベンチに座って、ロイルはその様子をボーっと見ていた。
マリンの明るい笑い声が、聞こえる。
追い掛けっこをしたり、噴水に手を入れたり、母親と子供のごく自然な光景。
「お父様ー!」
マリンがユーイの手首を掴み、ロイルに手を振る。
ロイルは引きつりながら、小さく手を振った。
「・・・帰りたい」
マリンが綺麗な声で、歌いだす。
そういえば、マリンの歌なんて、聞くのは初めてだと思いながら見ていると、ロイルの視線に気付いたマリンが、照れたようにふわりと笑った。
「―――――!」
一瞬ドキリと胸がときめき、ロイルは慌てて視線を逸らす。
「まったく。いつもとは、まるで別人だな」
そう呟きながら、ロイルの心が『違う』と言う。
「何・・・?」
突然生まれた思いに戸惑い、拳を握り締める。
別人?いや、本当は知っている・・・。
目の前に、人の気配がして、ロイルが顔を上げる。
「マリン・・・」
マリンは微笑むと、ロイルに向かって右手を差し出した。
「あちらで一緒に遊びましょう。―――――あなた」
「・・・・・」
無意識の言葉。
ああ、そうだ。
ロイルはマリンの掌に、自分の掌を重ねた。
幸せそうに、笑うマリン。
マリンが渇望しているものが、目の前にある。
愛する夫、可愛い子供、幸せな家族。
マリンがロイルの手を引き、子供達のもとに戻る。
マリンに向かって両手を伸ばすユーイ。
自分は知っているのだ。
何故マリンが、酒に溺れたか。
何故マリンが、ギャンブルにのめり込んだか。
何故マリンが・・・過激で暴力的な妻を演じているのか。
知っていて、知らない振りをしている。
ロイルの手が、マリンの頬に触れる。
「なあに・・・?」
ユーイを抱いたマリンが、首を傾げる。
「マリ、―――――!!」
ロイルがマリンから手を離し、周囲を警戒する。
誰かが自分達を見張っている。
「ロイル?」
訝しげなマリンにロイルは微笑んで、もう一度頬に触れた。
「砂が、付いてる」
何も付いていないマリンの頬を撫で、ロイルはサーシャを抱き上げた。
「そろそろ帰りましょう。子供達のご飯の時間です」
「あら、もうそんな時間?」
マリンが子供達を乳母車に乗せる。
乳母車を押すマリンのすぐ後ろを、ロイルは歩いた。
やはり、誰かが付けてくる。
標的は、自分かマリンか或いは・・・。
屋敷まで戻ると、アンが庭で花壇の手入れをしていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、アン」
アンが開けたドアから、乳母車ごと屋敷に入るマリン。
続いて入ろうとしたアンの袖を、ロイルが軽く引き、耳元で囁く。
「マリンと子供達を、外に出さないように」
それだけでアンは、何かがあった事を悟り、軽く頷いて屋敷内に入り、内側から鍵を掛けた。
ロイルは腰の剣に手を触れ、今入ったばかりの門に向かって歩いた。