嘘と真実 ③
書斎でアンが淹れたお茶を飲みながら、ロイルは深い溜息を吐いた。
子供達が屋敷に来てから三日経っていた。
「まだ『ルル』は見付からないのですか?」
アンの厳しい声に、ロイルは眉を顰めた。
「・・・今、捜している」
アンはティーポットをテーブルに置き、ロイルの前に立った。
「関係のあった女性ですのよね?」
「・・・寝た女の名前など、一々覚えていない。何人居ると思っているんだ?」
「マリン様が知っているという事は、結婚が決まってからも、関係が続いていた女性ですわよね」
「・・・何人居ると思っているんだ?」
「・・・・・」
呆れるアンをチラリと見て、ロイルは更に続ける。
「だいたい、相手の半数以上は人妻だったんだ。そういう女は本名なんて、わざわざ名乗りはしないもんだ」
「・・・最低ですわね」
ロイルはお茶を飲み干すと、カップをアンに押し付けるようにして返した。
「だが俺は、妊娠させるようなヘマはしていない。・・・筈だ」
ロイルは大きく咳払いすると、話題を替えた。
「それよりマリンだ。酒を飲まない、カジノに行かない、殴らない、蹴らない、怒らない。あれは危険だ。そのうちドカンと爆発するんじゃないか?」
「まあ!精一杯頑張っているマリン様を、そんなふうに言うなんて!そもそもロイル様がだらしない事をしなければ、こんな事にはならなかったのに!」
アンの剣幕に、ロイルは口元を引きつらせる。
「分かった、分かった。最近アンは、マリンの肩ばかり持つな」
「当然ですわ。わたくしとマリン様は『友達』ですもの」
「・・・・・」
ロイルは溜息を吐き、額に手を当てた。
その時、パタパタと走る音が聞こえ、ノックも無く書斎のドアが開く。
入って来たのはサーシャだった。
このサーシャは物怖じしない性格のようで、屋敷に来た翌日にはすっかり慣れて、元気に走り回っている。
一方のユーイは、正反対で直ぐにグズグズと、泣き出してしまうのだった。
サーシャの後を追い掛けて、ユーイを抱いたマリンが書斎に入ってくる。
マリンはサーシャの手を掴むと、優しく微笑んだ。
「いけませんよ、サーシャ。お父様はお仕事中です。あちらで遊びましょうね」
サーシャの手を引き、マリンは出ていった。
「・・・・・」
「・・・・・」
ロイルは机に突っ伏して、頭を抱えた。