嘘と真実 ②
「その子達ですか?」
ロイルはマリンの横に立つと、眉を寄せ、顎に手を当てた。
「近所に小さな子がいる家庭はない筈ですよ。名前は?」
マリンが首を横に振る。
「まだ上手く話せないの」
ロイルは溜息を吐くと、女の子の服に手を触れた。
「高級な生地ですね。捨て子では無い・・・となると、迷子ですね」
「そう。じゃあ、この子達の親を捜してきて」
あっさりと言うマリンに、ロイルは呆れた声を出した。
「名前も分からない子供の親なんて、無理ですよ。警備隊に引き渡しましょう」
「捜す事ぐらい、出来るでしょう?」
「そんなこと言われても・・・、ところで、そのポシェットは調べたのですか?何か手掛かりがあるかもしれません」
ロイルに言われてマリンが小さなポシェットを手に取る。
「・・・そうね。ちょっと見せてね」
マリンがポシェットを開けると、中には封筒が一通入っていた。
住所でも書かれているかと封筒を取り出すと、表に『ロイル・ウェルター様』という文字があった。
「まあ、ロイル様宛ですか?」
後ろからアンがマリンの手元を覗き込む。
なんとなく嫌な予感がして、ロイルはマリンから封筒を奪おうとした。
しかし、マリンが一瞬早く、封筒をビリビリと破り、便箋を広げてしまう。
ロイル様
この子達はあなたの子供です。
女の子が『サーシャ』、男の子が『ユーイ』です。
これからはあなたが育てて下さい。
ルル
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
アンが非難の眼差しをロイルに向ける。
ロイルは慌ててマリンの肩を抱いた。
「タチの悪いイタズラですね。困ったものです。この子達は警備隊に引き渡しましょう」
「・・・・・」
「マリン・・・?」
なんの反応も示さないマリンを訝しみ、ロイルは恐る恐る顔を覗き込む。
「―――――!!」
ロイルは驚愕した。
マリンが泣いている。
ロイルは口元を引きつらせて、マリンの涙を指で拭った。
「ど、どうしたんですか、マリン。イタズラですよ、これは。だいたい俺は『ルル』なんて女、知りません」
「・・・・・」
マリンが便箋をギュッと握りしめる。
涙がポタポタと落ち、文字が滲んでいく。
「マリン―――――」
「私・・・」
マリンは肩を震わし、声を絞り出した。
「私、知ってる。この香り・・・」
「・・・え?」
ロイルはマリンの手から便箋を取ると、鼻を近付けた。
甘い、独特な香りがする。
しかし、ロイルには、まったく記憶が無い。
「ロイルの身体から、この香りがした・・・。馬鹿だ私・・・、あんな嘘信じて。あの時の女との子なのね」
ロイルの背中を冷や汗が伝う。
やはり、まったく記憶に無い。
マリンは立ち上がると、サーシャとユーイの手を握る。
「さあ、今日からここが、あなた達のお家ですよ。お部屋に行きましょうね。アン、この子達に必要な物を、買い揃えてちょうだい」
子供達の手を引き、階段へと向かうマリンを、ロイルは呆然と眺めた。