表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/73

「聖女の雫」争奪戦 ①


 『ドキッ!男だらけの寒中水泳大会〜ポロリもあるかも』



「・・・・・・・・・・え?」

 ロイルは、目の前に差し出されたチラシに目を丸くした。

 マリンとアンが商店街に買い物に行き、ホッとしたのも束の間、怪しいチラシを持って帰ってきた事に、ロイルは頭痛のする思いだ。

「・・・で、まさかこれに出場しろと言うのではないでしょうね」

「もう出場登録してきたわよ」

「・・・え」

 当然のように言って、マリンはチラシの一文を指差した。

「ほら見て、ここ!『優勝商品は、なんとあの聖女の雫!』、ね!」

「いや、『ね!』って言われても・・・。なんですか?『聖女の雫』って」

 するとマリンは、信じられないというように、目を大きく見開いた。

「知らないの!?まあなんという無知!公爵家の次男が、こんな有名な物も知らないとは。一体どんな教育を受けてきたのかしら」

「・・・・・」

 ロイルは口元を引きつらせながら、アンに聞いた。

「アン、お前は知っているか?」

「ええ、有名でございますから」

「・・・・・」

 アンがあっさりと言い切る。

 マリンが勝ち誇った顔でロイルを見た。

「仕方ないわね。教えてあげるわ。『聖女の雫』とは、お酒よ」

「酒・・・ですか?」

 眉を寄せ、首を傾げるロイル。

「そうよ。一口飲めばその美味さから、楽園で聖女に膝枕されている気分になると言われているお酒、それが『聖女の雫』よ。厳選された素材を用い、あの『マツロベー』が作ったの!出荷量の少なさから、幻の酒と言われ、その値段は庶民の年収の約十倍よ!って聞いてるの!?ロイル!」

 もう『マツロベー』が何なのか訊く気も起こらず、ロイルはチラシをテーブルに投げ、グッタリとソファーに身を預けた。

 つまりその酒を手に入れる為に、一年で最も寒いこの時期に、川に入って泳げと言うのだ。

「大体なんだ、『聖女の雫』という名は。聖女のどこから出ている雫だ?もの凄く卑猥な雰囲気がするぞ」

 思わず口から出た言葉に、マリンが眉を寄せ、蔑んだ目でロイルを見た。

「卑猥なのはロイルでしょう?・・・まあいいわ。アン、アレを」

 マリンの言葉に心得たとばかりに頷き、アンが小さな紙袋をロイルに渡す。

「・・・・・?」

 何となく嫌な予感がしながらも、紙袋の中の物を取出したロイルは、驚愕した。

「何ですか!このやたら布地の少ない水着は!」

 いわゆるビキニタイプの男性用水着であるが、大事なところを辛うじて隠す事ができる位の布地しかない。

 横などは、もう紐である。

「参加者は、これを着用しなければいけない決まりなんですって」

 ロイルはテーブルにあるチラシをもう一度見て、確信した。

 この大会の主催は商店街だ。

 寒いこの時期は皆必要以上には外に出ない、商店街の客も減る。

 この大会で出来るだけ客を集め、儲ける気なのだ。

 つまり、『ポロリもあるかも』ではなく、『ポロリさせる気満々』なのだ。

 商店街は女性、しかも熟年女性を標的にしているのだろう。

 ロイルは目頭を押さえて、溜息を吐いた。

「・・・実は、俺は泳げないのです」

「そう。じゃあ今から、川に泳ぎの練習に行きましょう」

「・・・いや、その、最近体調が悪くて―――――」


 ―――――バキッ!!


「ごちゃごちゃ言ってないで、覚悟を決めなさい!」

 マリンがロイルの胸ぐらを掴み、顔を近付ける。

「いいこと?必ず優勝するのよ。負けたら許さないから!!」

「・・・・・」

 ロイルは、こんな女と結婚させられた、自分の不幸を嘆いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ