アンの恋 ⑦
屋敷に戻ったロイルは、二階にあるアンの部屋に直行した。
ドアを開けると、椅子に座りうなだれるアンと、その前にしゃがんでアンの手を握りしめるエリアスの姿があった。
エリアスが驚いた顔でロイルを見て、眉を寄せる。
「ノックぐらいしろ」
「ああ、すみません」
全く悪いと思っていない様子で口先だけで謝り、ロイルはエリアスの横に立った。
ゆっくりと顔を上げたアンの頬は、醜く腫れあがっていた。
「兄さん、帰っていいですよ」
ロイルはエリアスの腕を掴み、強引に立たせる。
「は?ちょっと待てロイル」
背中を押され、無理矢理出口に追いやられたエリアスが、不満の声を上げた。
「まったく、お前は本当に・・・。まあいい。後は任せた」
エリアスが部屋から出ていくと、ロイルはアンの身体を乱暴に持ち上げ、ベッドに放り投げた。
驚いた表情のアンを睨み付けながら、腰の剣と上着を床に叩きつけた。
ロイルはベッドに乗ると、アンの身体をグイと抱き寄せ、そのまま横になる。
「・・・寝るぞ」
そして目を閉じたロイルに、アンは戸惑う。
・・・それからどれくらいの時間が過ぎたのか、アンは眠る事など出来る訳もなく、ただロイルの胸に顔を埋めていた。
規則正しい鼓動が、アンの強張っていた身体と心を溶かしていく。
「・・・アン」
眠っているとばかり思っていたロイルが、不意に口を開き、アンはビクリと身体を震わせた。
アンが顔を上げると、ロイルは目を閉じたまま話しだす。
「アンが居ないと、困る」
ロイルが腕の力を強めた。
「・・・誰がこの屋敷の掃除をするんだ?」
戸惑うアンの髪を撫でる。
「食事の用意はどうする。俺は茶の入れ方も知らないのに」
ロイルはアンの瞼を指でそっと閉じた。
「それに・・・、あの我が儘女の面倒をみるのは、俺一人では無理だ」
アンの腫れた頬に、ロイルが唇を寄せる。
走った痛みに、アンが眉を寄せ、目から涙が溢れた。
ロイルは唇を滑らせ、アンの涙を吸い取る。
「だから・・・、困る」
アンが目を開くと、ロイルも目を開けアンを見ていた。
暫く二人は見つめ合っていたが、やがてロイルがアンの頭を掴んでグイと自分の胸に押し付けた。
「もう寝るぞ」
アンは目を閉じロイルの背中に手を回す。
「・・・うん、うん」
小さく頷き嗚咽を漏らすアンの背中を、ロイルは何度も、何度も撫でた。
そして二人は抱き合ったまま、いつしか眠りについたのだった。