表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/73

アンの恋 ⑥

 ロイルは屋敷に向かってどんどん歩き、正面のドアを開けようとした。


 ―――――ガチャガチャッ!


 しかし、鍵が閉まってる。

 舌打ちをして屋敷の横手に行き、窓を剣の鞘で叩き割る。

 派手な音がして、ガラスが飛び散った。

「おいおい、雑にやり過ぎだろう・・・」

 呆れた様子のエリアスを無視し、ロイルは窓の鍵を開け、屋敷の中に入る。

 割れたガラスを避けながら、エリアスも中に入った。

 ロイルは部屋のドアを、無造作に開ける。

「これでは侵入した事に、すぐ気付かれるぞ。アンが危ないだろう」

 ロイルはチラリとエリアスを見て、ドアを乱暴に閉めた 。

「・・・殺る気満々だな」

 怖いなら帰れとロイルの目は語っていた。

 エリアスはロイルと違い、剣の才能に全く恵まれなかった。

 いざというときアンを守るどころか、自分を守る事さえ出来ないのだ。

 ここは弟の腕を信用し、付いて行くしかないと、エリアスは溜息を吐いた。

 少し歩いて、ロイルが立ち止まる。

「どうした?」

「声」

「声?」

 聞こえるという事だろうと、耳を澄まそうとしたエリアスを置いて、ロイルは先に進む。

「おい、待て待て」

 エリアスが焦って追いかけた。

 ロイルは少し先にあるドアの前で止まり、ドアノブを握り、いつでも突入出来る態勢をとる。

 ここまで来ると、エリアスの耳にもはっきりと声が聞こえた。

「・・・これで、全財産よ」

「全て?これで?」

「・・・ええ」

「そう、そうか・・・」

「・・・・・」

 男の靴音が聞こえた。

「今までありがとう。君はもう・・・用無しだ」

 ロイルがドアを勢いよく開ける。

 続けてエリアスが部屋に入った時には、既にカイリは部屋の隅で仰向けに転がり、ロイルがその腹を踏みつけていた。

 エリアスは、床に座り呆然としているアンに駆け寄り、抱き締める。

 アンが虚ろな視線をエリアスに向けた。

「また・・・あなた達なの?どうして邪魔をするの?」

「・・・・・」

 エリアスはアンの顔を両手で挟み、カイリの方に向けた。

「アン、よく見なさい。あの男はリカルドではない。カイリという詐欺師です」

「・・・・・」

「別人だ。アン」

「・・・・・」

 アンはフッと身体の力を抜き、俯いた。

「ええ・・・、ええ、そうね・・・、そんな筈ないわ・・・」

 両手をじっと見つめる。

「 だって・・・、だって、リカルド兄様は・・・、わたくしが殺したんですもの」

 エリアスがアンを強く抱き締める。

「アン・・・」

「わたくしが殺したの。この手で。兄様も、父様も、母様も。皆。わたくしが殺した」

 エリアスは、乱れたアンの髪を撫で、頬に流れる涙を指で拭った。

「行きたい。兄様と同じところに」

 虚ろな目で立ち上がろうとするアンを、エリアスが止めようとする。

 ロイルは舌打ちをして、カイリに蹴を入れ、アンのもとに向かった。

 ロイルが右手を上げ、アンの頬に振り下ろす。

「ロイル!!」

 大きな音がして、アンの方がみるみる赤く腫れあがっていく。

「何をするんだ!アン、大丈夫か?」

 ロイルはアンから視線を外し、またカイリのところに戻る。

「兄さん、アンを屋敷に連れて帰って下さい」

 エリアスは眉を顰めてロイルの背中を見て、その視線をアンに移した。

 アンは頬を押さえ、戸惑った表情でロイルを見ていた。

「・・・・・」

 エリアスは溜息を吐いて、アンの肩に手を置く。

「もう少し手加減をしろ」

 エリアスが、アンを抱えるようにして、ドアに向かって歩きだす。

 アンは抵抗する力を無くしたように、エリアスにされるがままになった。

 二人が去ると、ロイルはカイリの顔を足で踏んで、視線を自分の方に強引に向かせた。

「まったく。余計な事をしてくれたな」

 ロイルが剣を鞘から抜き、カイリの腕に突き刺した。

 部屋に悲鳴が響き渡る。

「ああ、あの男に似ているな。アンが混乱する筈だ」

 ロイルは腕から剣を抜き、カイリの頬に滑らせた。

「ヒ、ヒィィィッ!」

 流れる血を冷めた目で見つめ、ロイルは口端を上げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ