アンの恋 ③
前を歩くアンに気付かれぬよう距離をとり、慎重に後をつける。
「あら?商店街に行くのかしら。ねえロイル、アンの好きな人ってどんな男性だと思う?」
「・・・お願いなので、静かにしてもらえませんか?気付かれてしまいます」
結局強引に付いてきたマリンに、内心かなり苛つきながら、ロイルはじっとアンを見た。
アンは商店街を通り過ぎ、屋敷からはかなり離れ、ハタヤ広場と呼ばれる場所まできた。
広場は談笑する人々や走り回る子供で賑わっていた。
その中で空いているベンチにアンが座った。
「待ち合わせなのね」
ロイルはアンから少し離れた、斜め後ろの位置にある木に隠れ、様子を見る事にした。
アンは背中を丸め、ボーっと空中を見つめているようで、普段の彼女とはまるで別人だ。
「ちょっと、まだなの?どれだけ待たせる気なのかしら」
マリンが苛つき、ロイルに八つ当たりし始めた頃、ロイルはアンに向かって歩いてくる男の存在に気付いた。
金色の髪に、すらっとした身体。顔は影になって見えない。
男に気付いたアンが背筋を伸ばす。
男はアンの横に座ると親しげに肩を抱き、頬に唇を寄せた。
「・・・・・」
眉を寄せ、その様子を見るロイルに、マリンが勝ち誇ったように笑う。
「ほら!やっぱり恋人がいたのよ。ここからじゃ顔が見えないわ。ロイル、移動しましょ」
「マリン、待ちなさい」
制止を聞かず飛び出したマリンの腕を慌てて掴み、叫ばれるといけないので口を手で塞ぐ。
「暴れないで下さい。気付かれないように移動します」
ロイルはマリンの手を引き、アンに気付かれず男の顔が見える場所に、そっと移動する。
そして男の顔を見たロイルは、驚きに目を見開いた。
「―――――!!」
男は爽やかに笑う。
「あら、いい男じゃない。ねえロイル」
マリンが楽しそうに言ったが、ロイルは険しい顔で男を見つめ、返事をしない。
「まさか・・・、いや、違う。似ているが、あれは・・・」
ロイルの呟きに、マリンが首を傾げる。
「なあに、似てるって?」
「・・・・・」
その時、アンが持っていた小さな鞄から、分厚い封筒を取り出すのが見えた。
アンはその封筒を男に渡し、男は中身を確認して嬉しそうにアンを抱き締めた。
「何を渡したのかしら」
「・・・・・」
興味深げに身を乗り出すマリンを、ロイルが腕に抱える。
「え!?ちょっと―――――」
マリンの口を乱暴に手で塞ぎ、ロイルはもう一度男を見た。
男はアンを抱き締め、口端を引き上げて笑んでいた。
「・・・兄さんにも、知らせるべきだな」
ロイルは男を睨み付け、暴れるマリンを力ずくで押さえ込み、屋敷へと帰った。