アンの恋 ①
「ああ、暇ね・・・」
「・・・・・」
「暇よ・・・」
「・・・・・」
「暇・・・暇・・・」
「・・・マリン」
ロイルは溜息を吐いて、ペンを置いた。
「気になって仕事がはかどらないのですが・・・」
ソファーにうつ伏せに寝そべって、マリンはつまらなそうに、足をばたつかせた。
「だって、暇なんですもの。まだ終わらないの?」
「終わりません。アンに遊んでもらって下さい」
「アンなら居ないわよ」
マリンは勢いよく身体を起こして、ソファーに座った。
「居ない?買い物ですか?」
「アンはそう言ってたけど・・・」
意味ありげな視線を寄越すマリンに、ロイルが眉を寄せる。
マリンは人差し指を顎に当てて首を傾げた。
「聞きたい?」
「・・・いや、別に」
ロイルは何となく関わってはいけないような気がして、再びペンを手に取り、書類に視線を落とした。
マリンがテーブルの上のティーカップを掴んで、ロイルに投げつける。
―――――ガコッ!
カップはロイルの頭に当たって床に転がった。
「・・・痛いのですが」
「聞きたいわよね?」
「あー・・・」
「聞・き・た・い?」
「・・・はい」
ロイルが嫌々頷いてペンを机に投げ、マリンは満足気に微笑み、立ち上がって両手を腰に当てた。
「アンね・・・、好きな人がいるみたいなの!」
「・・・は?」
予想外の言葉に一瞬意味を理解出来ず、ポカンと口を開けるロイルに、マリンがフフッと笑う。
「恋よ、恋!アンは恋をしてるの!愛しい相手に会いに行ってるのよ」
自信満々に言い放つマリンに、ロイルは馬鹿馬鹿しいという感じで手を振った。
「まさか。あり得ませんよ」
マリンがムッとして眉を寄せる。
「なんで!?アンだって女の子なんだから、恋ぐらいするわよ!間違いないんだから!」
「まあ、普通はそうかもしれませんが・・・、証拠でもあるんですか?」
「勘よ!!」
ロイルは溜息を吐いて、背もたれに身を預けた。
「何よ!絶対間違いないんだから!」
「はいはい。ちょっと本でも読んでいて下さい。この書類が終わったら、散歩に行きましょうね」
ロイルはもう全く相手にせず、ペンを持つと、再び仕事に集中した。
「何よ!本当なんだから!ロイルの馬鹿ー!」
―――――ガコンッ!!
マリンの投げたティーポットが、ロイルの頭を直撃した。