怪盗うさぎ仮面だぴょ~ん! ⑧
国王も騎士も侍女も、王の私室を開けた瞬間、一斉に固まった。
部屋の中に、何故か馬がいる。
あり得ない事態に、誰もが目を疑った。
そして、その固まった状態からいち早く抜け出したのは、騎士達であった。
「陛下、お下がり下さい!」
「どこかに侵入者がいる!応援を呼べ!」
その様子をベッドの影に隠れて見ていたロイルは、そっと溜息を吐いた。
「ねえ、早く帰りましょう。もう奪えるものは無いでしょ?」
この状態で暢気な事を言うマリンに呆れてしまう。
「どうやって帰るんですか」
「死なない程度に斬っておしまい」
「・・・・・」
ロイルがもう一度溜息を吐いた時、国王が大きな声をあげた。
「あれぇ!?どこかで見たと思っていたが、お前もしかしてジョニー?」
止める騎士を押し退けて、王が馬の側へ行く。
「あの馬鹿・・・」
ロイルは思わず本音が口から漏れてしまった。
「なんでこんなところに。ああ!ということは・・・」
王はキョロキョロと辺りを見た。
「マリ―――――」
ロイルはベッドの影から飛び出すと、素早く王の首を左腕で締めた。
「グエッ!」
王が苦しみの声をあげる。
「動くな!」
咄嗟に剣を抜こうとした騎士達が、ピタリと動きを止める。
「下がれ。ゆっくりとだ」
騎士達は視線を交わし、ジリジリと下がる。
見知った者達に、自分の正体がばれるのもまずいが、マリンの名が出るのはなんとしても避けなければならない。
「く・・・苦し・・・」
腕をペチペチと叩かれて、ロイルは少し力を緩めた。
王がホッとして深呼吸をする。
「ああ、苦しかった」
王は首をひねって後ろにいるロイルを見た。
「面白いものかぶってるな。なんの遊びだ?余もまぜてくれ、ロイ―――――」
ロイルは再び王の首を締めあげた。
溜息を吐いて、王の耳に口を近付けて囁く。
「陛下、名前を出さないで下さい。いいですね」
王がコクコクと頷いたので、ロイルは力を緩めた。
「バニー様!帰りますよ!」
ロイルの呼び掛けに、マリンがベッドの影から出てくる。
「おおおおお―っっ!!」
マリンの姿に王が目を大きく見開き、歓声をあげた。
「うるさいっ!」
―――――パシィッ!
マリンが鞭で王を打つ。
「・・・痛いですよ、バニー様。俺にも当たってます・・・」
「バニーの女王様!素晴らしい!」
―――――パシィッ!
マリンはもう一度鞭で打つと、首飾りを高々と掲げた。
「国宝は我ら『怪盗うさぎ仮面団』が戴いた!」
「・・・なんですか、その語呂の悪い名は・・・」
「ずらかるわよ!一号!」
「・・・ぴょ〜ん」
マリンが馬を連れて、隠し通路へと向かう。
その後を王を人質にしたままロイルが続いた。
「もう帰る!?」
王が驚いてマリンを見た。
「嫌だ!もっとゆっくりしていってくれ!誰か、お茶の準備を!」
「侵入者と仲良くお茶しては駄目ですよ・・・」
ロイルは溜息を吐いて、王を小声でたしなめた。
隠し通路の入り口まで行くと、ロイルはマリンに右手を差し出した。
「バニー様、鍵を下さい」
マリンが胸の谷間から鍵を取出しロイルに渡した。
「では帰りますが、くれぐれも我々の名を出してはいけませんよ」
「嫌だ嫌だ!帰らないでくれ!」
「あっ!こら!」
王が手足をばたつかせて暴れ、ロイルはバランスを崩す。
その隙を騎士達は見逃さなかった。
剣を抜き、一気に間合いを詰めてくる騎士達に舌打ちして、ロイルは王を突き飛ばした。
ジョニーの尻を叩き、隠し通路へと走らせると、マリンを抱えて通路内へと入る。
「あっ!首飾りが!!」
マリンの手から首飾りが落ちたが、拾う余裕は無かった。
ドアを閉めて、鍵を掛ける。
階段を一気に駆け降りると、待っていた馬に飛び乗った。
「ちょっと!私の首飾り!!」
「諦めて下さい」
ロイルが馬を走らせる。
「また遊びに来てくれ―!待ってるからな―っっ!!」
ドアの向こうから、王の叫ぶ声が聞こえた。