怪盗うさぎ仮面だぴょ~ん! ⑥
「一号、金目の物を探しなさい」
「・・・うちの父から金を巻き上げた方が、早くないですか?」
「嫌!」
ロイルは溜息を吐くと、大きなベッドの向こう側にある棚の引き出しから、懐中時計を取り出した。
「大きな物は持って帰れませんし、時計はどうですか?ここにいくつか入ってますよ」
マリンはロイルのところに行き、時計を手に取った。
「そうね。いいわ」
頷くと、マリンは時計をロイルの上着のポケットに次々と入れた。
「・・・え?何故俺のポケットに入れるんですか?」
「仕方ないじゃない。袋忘れてきちゃったの」
「あー、そうですか・・・」
ロイルは肩を落とすと、残りの時計を纏めて、無造作にポケットに突っ込んだ。
「他には無いかしら?」
キョロキョロと周囲を見るマリンの肩を、ロイルが抱き寄せた。
「もう要らないですよ。この時計だけで、一億インになりますから。帰りましょう」
実は一億など軽く越えているのだが、その事は黙っていた。
その言葉を聞いたマリンがロイルを睨み付け、ハイヒールの踵で思い切り足を踏みつけた。
「―――――っ!」
慌てて離れるロイルを、マリンは鞭で打つ。
―――――パシィッ!
「折角ここまで来たんだから!奪える物はすべて持って帰るのよ!」
「マリン、扉の外には騎士がいるんです。少し静かにして下さい」
―――――パシィッ!
「バニー様とお呼び!」
「・・・バニー様、お願いですから静かにして下さい。俺もさすがに、かつての同僚にこの姿を見られたくはないですから・・・」
マリンはフンと鼻を鳴らして、ロイルに背を向けて棚を漁り、何も無い事が分かると、隣の衣装部屋へと向かった。
「・・・はぁ」
ロイルは溜息を吐くと、ベッドのところに行き、ドサリと腰かけた。
近寄ってきたジョニーを優しく撫でる。
「ジョニー、お前は同情してくれるか?」
まるで返事をするように軽く鳴いた愛馬に微笑んで、ロイルはベッドに寝転んだ。
目を閉じて暫く休んでいると、マリンが怒りながら戻ってきた。
「ちょっと、何寝てるのよ!」
「・・・・・」
ロイルは目を開けて、身体を起こした。
「もう!めぼしい物は何も無かったわ!」
「そうでしょうね。陛下は華美な装飾品は好きではありませんから。式典の時くらいしか、宝石も身に付けませんし。高価なものは宝物庫に置いてありますから、ここにはありませんよ」
―――――パシィッ!
「そういう事は、早く言いなさい!」
「・・・すいませんでした」
どうせ言っても聞かないくせにという言葉を飲み込んで、ロイルは謝った。
「仕方ないわね、帰るわよ」
やっと帰る気になったマリンにホッとして、ロイルは立ち上がった。
「―――――あ」
その拍子にポケットから時計が一つ落ちて、馬の足に当たってベッドの下へと転がっていった。
「・・・・・」
「拾いなさい」
「・・・一つくらい、いいじゃないですか」
―――――パシィッ!
「痛いですよ。分かりました。拾います」
ロイルは床に這いつくばると、ベッドの下に潜り込んだ。
「―――――うわ。埃が凄い。あの子達、さぼってますね」
陛下付きの侍女の怠慢を思いもしないところで発見してしまったが、取り敢えずそれは無視して、奥にあった懐中時計を掴んでベッドの下から這い出した。
「ありましたよ。ほら」
ロイルは握っていた懐中時計をマリンに見せた。
「―――――っ!」
「―――――まあ!」
ロイルは驚きに目を見開き、マリンは両手を頬に当て、キラキラと目を輝かせた。
懐中時計だと思って拾ったものは、青い、大きな宝石の付いた首飾りだった。