怪盗うさぎ仮面だぴょ~ん! ③
「・・・何ですか?その格好は」
ロイルは唖然としてマリンの上から下までを何度も見た。
「どう?なかなかいい感じでしょう?」
「いや、何と言うか・・・」
頭の上にはウサギの耳が付いたヘアバンド。
目元を覆う赤い女王様仮面。
蝶ネクタイね付いた襟に、カフス。
白くて丸い尻尾の付いた際どい服。
手には長い一本鞭。
編みタイツにハイヒール。
「そのバニーガールの衣装、どうしたんですか?」
「カジノの支配人に貰ったのよ」
「その仮面と鞭は?」
「雑誌の付録よ」
「仮面と鞭が付録って・・・。いったいどんな雑誌を読んでいるんですか・・・」
頭を抱えるロイルに、アンが何かを差し出した。
ロイルが嫌々ながら手に取ると、どうやらそれは帽子のようだった。
「・・・まさか、俺にこれをかぶれと?」
赤い目出し帽を、信じられない思いでロイルは見た。
こんなもの何処で手に入れたのか、恐ろしくて訊く気になれなかった。
「早く着替えて。行くわよ」
ロイルは『まさか!』と目を見開いた。
「こんなものをかぶって、外に出るんですか!?」
「そうよ。早くしてちょうだい」
「・・・・・」
動かないロイルに、苛立ったマリンが鞭を振り下ろした。
―――――パシィッ!
「やめて下さいマリン!痛いですよ!」
「私のことは『バニー様』とお呼び!」
「・・・・・」
―――――パシィッ!
鞭がロイルの背中を打つ。
「―――――っ!分かりました・・・」
ロイルが目出し帽をかぶると、マリンは満足したように頷いた。
アンが「外は寒うございますから」と、毛皮のコートをマリンに羽織らせた。
「じゃあ、行くわよ!下僕一号!」
「・・・・・」
「返事は?」
「・・・はい」
―――――パシィッ!
「違う!返事は『ぴょ〜ん』よ!」
「・・・ぴょ〜ん」
マリンは頷くと、部屋を出て、更に屋敷も出て、庭の馬小屋までやってきた。
外はすっかり暗くなっていた。
アンがランプの明かりで馬小屋の中を照らす。
すると、黒い毛並みの美しい立派な馬が、嬉しそうにいなないた。
「ジョニー!出番よ!一号、早く準備なさい」
「・・・何をやろうとしてるのか分かりませんが、やめませんか?」
―――――パシィッ!
「・・・はいはい。分かりました。準備します」
―――――パシィッ!
「返事は『ぴょ〜ん』だって言ってるでしょう!?」
「・・・ぴょ〜ん」
ロイルは仕方なく馬に鞍をのせて出発の準備をした。
アンが馬小屋に置いてあった小さなランプに火をつけて、鞍に吊す。
すべての準備を済ませ、馬のジョニーを小屋から出した。
「・・・で、何処に行くんですか?」
「王都の外れにある、教会よ」
「教会・・・?」
マリンがアンに視線を送ると、アンがロイルに地図を見せた。
「ここよ」
地図の一点をマリンが指し示す。
「・・・結構遠いですね。分かりました」
アンは地図をしまうと、先に歩いて行き、門を開ける。
ロイルがジョニーに乗り、マリンを引き上げて自分の前に座らせた。
「いってらっしゃいませ」
アンが頭を下げる。
ロイルは溜息を吐いて、空を仰いだ。