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フィーバー!! ②

 きらびやかな空間。

人々はそこで「一攫千金」という夢を見る。

 王都でも一際華やかなこの場所――カジノで、ひとりの少女がイライラと左親指の爪を噛みながら、右手でスロットマシンのレバーを引いている。

 少女はまたもや結構な金額をこのスロットマシンにつぎ込んでいた。

 少女の美しい黄金の髪は乱れ、深い緑の瞳には苛立ちがあらわれている。

「なにこれ、やっぱり壊れてるのね。ぜんぜん当たらないじゃない。もう!この!」

 叩くようにボタンを押すマリンの後ろから、あきれ果てた声がする。

「そんな簡単に当たったら、ここに居る人たちは皆億万長者ですよ」

「・・・うるさい、集中できない。静かにしろ」

「はい、はい」

 

 それから暫くの間、マリンはスロットに集中し、ロイルは無言でその様子を見ていた。

 そして―――。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 マリンは自分の右手に載っているメダルをじっと見つめる。

「あー、最後の一枚になってしまいましたね」

 マリンは、只じっとメダルを見つめる。

「さぁ、それも投入して、もう帰りましょう。今度こそ本当に、もうお金はありませんからね。アンも待ちくたびれていますよ。だいたいですね、ちょっと食料買いに出ただけなのに、すっからかんになってしまって、あと一週間どうやって乗り切るか考えなくてはいけなくなりましたよ。それにですね―――」

「うるさい、黙れ」

「・・・・・・・・」

 マリンは目を閉じて大きく深呼吸をした。何度か繰り返した後、メダルを載せた右手を目の高さまで掲げてそれに左手をかざす。

「・・・何やってるんですか?」

「・・・・・・・・」

「ねぇ、何やってるんですか?」

「・・・・・・・・」

「ねぇ―――」

 マリンが椅子ごとクルリと後ろを向き、ロイルの脛に蹴りをいれた。

「痛いですよ」

「うるさい。今、このメダルにパワーを注入しているんだから、静かにして」

「パワーって・・・あなたいつから超能力が使えるようになったんですか」

 脛を擦りながら言うロイルを無視してマリンはスロットマシンの方を再び見る。

 ゆっくりとメダルを投入口に入れると、今度はスロットマシンに両手をかざす。

「あー、スロットマシンにもパワー注入ですか?」

「・・・・・・・・」

 マリンは静かに目を開けると、右手人差し指を天に向けて叫んだ。


「天におわしますギャンブルの神よ!降臨したまえぇぇ!!」


 それはもう素晴らしい気迫だった。突如として雷鳴が轟き、マリンを中心として嵐が巻き起こり、その指先に神が降臨してもおかしくない程の。

 そしてその時―――、


 ピッ・ピッ・ピッ


「――――え!?」

 目の前で起こった出来事がマリンには理解出来なかった。

 突然後ろから伸びてきた手がスロットマシンのボタンを押してしまったのだった。

「さあ、終わりましたね。帰りますよ」

 呆然とするマリンを左肩に担ぎ上げるロイル。

 そう、スロットマシンのボタンを押したのは彼だったのだ。

 そして出口に向かって歩き出そうとする。

 マリンはハッと正気を取り戻し、絶叫した。


「あぁああああああああああああああああああああ!!」


「うるさいですよ。静かにして下さい」

「なんで!?どうして!?信じられない!バカ!?あなたバカ!?」

「はいはい、バカですよ」

「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」

「はいはい」

「バカバカバカバカバカバカバカバカバ――――」


パンパカパーン!!!!


「カ――――え!?」

「―――――は!?」

 カジノ中に鳴り響くファンファーレ。

 固まる二人。

(まさか・・・)

 ロイルはおそるおそる振り返る。


7・7・7


(スリーセブン、当ててしまった・・・)

 ロイルの背中をツッと冷や汗が流れた。

 マリンも身体を無理矢理ねじ曲げて、スロットマシンを見る。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・なんであなたが当ててるの?」

「・・・いや、その」

「ねぇ、なんで?」

「・・・まぁ、ねぇ」

「な・ん・で?」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 ロイルはそっとマリンを下ろすとその身体をギュッと抱きしめた。

「素晴らしいですよ。マリン。驚きです。まさか本当にギャンブルの神を降臨させるなんて・・・」

「・・・・・・・・」

「頭の中に声が聞こえたのです。『お前の身体を借りるぞ』と。そうしたら、意志とは関係なく手が持ち上がり、ボタンを押していたのです。神です。明日食べる物さえ無い俺達へ、ギャンブルの神からの贈り物です」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・ロイル」

「はい」

 マリンがロイルの胸に手を置き、スッと離れる。

 そして右手をチョイチョイと動かしてロイルをしゃがませた。

 互いの視線が絡まる。

 マリンが大きく息を吸った。


「そんな訳あるかぁぁぁぁ!!!」


 バキィッと大きな音がしてロイルの身体が後ろに倒れる。

 マリンの渾身の右ストレートが炸裂したのだ。

 さらにマリンは倒れた身体に馬乗りになり、ロイルを殴り続ける。

「なにがギャンブルの神だ!この嘘つきが!!」


 バキッ!ボキッ!ゴキッ!ボキュッ!ドゴッ!!


 カジノ中の人間と声を掛けそこなった支配人が見守る中、ロイルは殴られ続ける。


 カジノ名物「ウェルター夫妻の大喧嘩」

 この日はいつもの三倍程派手であった。


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