表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/73

ラッキーアイテム ⑦

「あそこなの?」

 マリンは少し先を指差して、男に訊いた。

 男の案内で着いたのは、住宅街から外れた場所にポツンと建つ大きなお屋敷だった。

 高い塀に囲まれ、門の前には警備の者であろうが、柄の悪そうな男が二人立っている。

「・・・なんですか、あの頭の悪そうな者達は。あきらかに普通の屋敷ではないですよ。帰りましょう、ね、マリン」

 うんざりとした表情で、ロイルがマリンの肩を抱く。

「さあ!行くわよ!立ちなさい」

 道に座り込んでいる男の襟首をマリンが掴んだ。

「ゆ、許して下さい。こんなことがばれたら、きっと儂は殺されてしまう!ここまでが限界だ!」

 涙と鼻水でグショグショの顔をマリンに向けて、男はマリンのドレスの裾を掴んで懇願する。

「ほら、マリン。ここまでが限界だって言ってますよ。殺されるって。そんな危険なところに可愛いマリンを連れてなんて行けません。帰りますよ」

「仕方ないわね。じゃあ、あなたはここまでで帰っていいわ。行くわよ、ロイル」

「・・・俺の話、聞いてくれませんか?」

 猛烈な速さで遠ざかっていく男を見ながら、ロイルが溜息を吐く。

「大体、警備がいますよ。屋敷には入れてもらえないですよ」

「斬ればいいでしょ?」

「・・・あのねぇ」

 あっさり言ったマリンに、ロイルは肩を落として腰の長剣を軽く叩いた。

「これは護身用に身に付けているだけであって、人を斬る為に持ち歩いてる訳ではないですよ。殺人鬼じゃあるまいし」

「行くわよ!」

「だから駄目ですって」

 歩きだすマリンを後ろから抱き締めて、動けないようにする。

「あの感じだと、屋敷の中も警備が沢山いますよ。恥ずかしながら、俺一人ではマリンを守りきる自信がありません」

 マリンはロイルを睨み付けた。

「そんなはずないでしょう?『国一番の騎士』なんだから」

「多勢に無勢です。それに最近はろくに鍛練もしてないですし、すっかり鈍ってしまってますよ。『国一番』なんて過去の話しです」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 二人は見つめ合ったまま暫く動かなかったが、やがてロイルが溜息を吐いて、マリンを離した。

「分かりました。では、正面から乗り込むのは危険なので、屋敷の周囲を探ってみましょう。それで侵入出来そうになかったら、諦めて下さい。いいですね」

 マリンは頬を膨らましてロイルを睨んだが、その真剣な表情に、渋々頷いた。

「では行きますよ。決して俺から離れてはいけませんよ」

 ロイルはマリンと手を繋ぐと、屋敷の裏手に向かって歩きだした。

 様子を窺いながら歩いて、そっと裏手を覗くと、塀にドアが一つあった。

「使用人の出入口ですね」

 裏には警備はいないようだ。

「ちょうどいいじゃない。あそこから入りましょ」

 マリンはロイルの手を引いてドアまで行くと、ノブを掴んだ。

「マリン、俺より先を歩いては、危ないですよ。それにドアには鍵くらい掛かってます。開く筈は・・・」

 しかし、ドアはあっさりと開き、ロイルは唖然として呟いた。

「・・・なんで開くんだ?」

 裏庭にも警備の姿は無く、マリンはずかずかと屋敷に向かって歩いた。

「待って下さい。そんな不用意に近付いたら危ないですよ」

「大丈夫よ」

「何を根拠に―――――」

 ロイルは不意に立ち止まると、マリンの口を押さえて、近くの茂みの中に身を隠した。

「静かにして下さい」

 暴れようとするマリンの耳元で囁くと、ロイルは口を押さえていた手を離した。

「・・・何?」

 小さな声で訊いたマリンをチラリと見て、ロイルは屋敷に視線を戻した。

「声が聞こえませんか?」

「声?」

 マリンが耳を澄ますと、微かに笑い声のようなものが聞こえた。

「聞こえるけど、何言ってるのかは分からないわ」

「・・・帰りませんか?」

「嫌!」

 ロイルは慌ててマリンの口を押さえて警戒したが、誰も来る気配は無い。

「お願いですから、大きな声は出さないで下さい」

 溜息を吐いて手を離すと、マリンが茂みから出て行こうとする。

「マリン、駄目ですって」

 無視して行こうとするマリンをもう一度茂みに引き摺り込んで、暴れる身体を抱き締める。

「・・・分かりました。確かめに行きましょう」

 途端に大人しくなるマリンの手を引いて、ロイルは茂みから出ると、警戒しながら声のする方へ行く。

 屋敷の角を曲がると、窓を開けている部屋があり、声はそこから聞こえてきているようだ。

 窓の近くにある茂みに身を隠して、ロイルはそっと部屋の中を覗いた。

「わぁっはっはっはっ!!」

 大きな声で笑い酒を飲んでいる、太って脂ぎった男の姿が見える。

「・・・・・・・・」

 途端にロイルは脱力して地面にへたり込んだ。

 そんなロイルを訝しげにマリンが見る。

「何?どうしたの?」

「・・・大失敗です。あいつの屋敷だったとは。帰りましょう。あんなのと関わり合いになってはいけませんよ」

「あいつ・・・?」

「なるほどね。この中途半端な警備といい、せこい詐欺といい、まさにあいつのやりそうな事ですね」


 ―――――バキッ!


「私にも分かるように説明なさい」

「・・・あー、マリンは知らなくていいですよ。それより帰りましょう。暗くなってきたことですし」

 ロイルは立ち上がると、マリンをヒョイと左腕に抱え、叫ばないように右手で口を塞いだ。

「う、う、うーっ!」

「はいはい。もうお金は俺があげますからね」

 暴れるマリンを小脇に抱えて、ロイルが帰ろうとした時、一段と大きな笑い声が聞こえた。


「はあーっ!はっはっはっ!!陛下亡き後は、儂が王となるのだ!!」


 ロイルとマリンの動きがピタリと止まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ