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ラッキーアイテム ③

 商店街―――――。

 道のど真ん中で仁王立ちの美少女が叫ぶ。


「どぉこぉだぁぁぁぁー!!どこに隠れたー!!」


 目を血走らせ、叫ぶ姿を見た商店街の人々は、一瞬驚いて動きを止めるが、すぐに「なんだ、マリンちゃんか」と言って何事も無かったかのように自分の仕事を再開させる。

 マリンの奇行は、商店街ではよくある光景であった。

 それを道の端に胡坐をかいて頬杖をついた格好でロイルは見ていた。

 競馬場は勿論、王都のあちこちを捜してまわったのだ。もうすぐ日も暮れる。ロイルの疲労もピークを迎えていた。

「・・・なんであんなに元気なんだろう」

 早く帰って、アンの作ったスープでも飲んで、眠りたい。

 ロイルは溜息を吐いて、マリンを説得するために立ち上がった。

「マリ――――」

 その時、警備隊の制服を着た男がマリンに近付いているのに気付いた。

 一瞬警戒したが、その顔が見覚えのあるものだったので、ロイルは肩の力を抜いた。

 『王都警備隊五番隊所属、サッシュ・ワイヤ』ーーーー。

「あぁ、面倒な奴に遭ってしまった・・・」

 溜息と共に呟くと、ロイルはマリンの許へ向かった。






「あの・・・ロイル様の奥様・・・ですよね」

「ぁあ!?」

 返ってきた言葉に頬を引きつらせて、サッシュはマリンを見た。

 間違いない。見た目を裏切るこの言動。

 何故道の真ん中で叫んでいるのかは分からないが、このままにしては置けないと、真面目なサッシュは果敢にもマリンに挑んだ。

「あの、こんな所で立っていると、周囲の迷惑になります。端に移動して下さい」

「ちょっとあなた!これ位の背丈の少し太めのおじさん見なかったかしら!?」

 サッシュは自分の言葉を見事に無視されて、唖然とした。

「ちょっと、聞いてるの!?」

 マリンはサッシュの胸ぐらを掴んで強く揺さ振った。

「は、はい。聞いていますよ。でも取り敢えず、移動しませんか?話はそれからで・・・」

「見たか見なかったか、簡潔に答えなさい!」

「いえ、あの・・・」

 頭が激しく動き、クラクラとしてきた時、突然マリンの手がサッシュから離れた。

「はいはい。やめましょうね」

 サッシュが頭に手を当てて視線を上げると、マリンを後ろから抱き込んでいるロイルと目が合った。

「ロイル様・・・」

「こんにちは、ワイヤ君。見回りですか?」

「離しなさい!ロイル!」

 ニッコリ笑うロイルと暴れるマリン。つい先日見た光景と同じである。

 サッシュはあの時のことを思い出して、目眩がしそうだと目頭を押さえた。

「妻に話し掛けていたみたいですが、何かご用がありましたか?」

 サッシュはそこでハッと目的を思い出した。

「そうです!奥様が道の真ん中で、その、叫んでらしたので、端に移動していただこうかと思いまして。周囲にも迷惑になりますし・・・」

「ああ、そうですか。すみませんでした。マリン、移動しますよ。そうだ、そこの店でジュースでも飲みましょうか。いっぱい叫んで喉が渇いたでしょう?」

 ロイルはマリンを引き摺って、果物屋の店舗前にある椅子に座らせた。

 この店の新鮮な果物を絞って作ったジュースはマリンの好物なのだ。

「いらっしゃい、マリンちゃん。何にする?」

 すぐに注文を取りに来た果物屋の親父がニコニコとして訊く。

「イチゴミルク!!」

「はいよ。ロイル様はいつものでいいですか?」

「ええ、お願いします」

「そちらの方は?」

 親父がサッシュの方を見る。

 何となくロイルに付いてきてしまったサッシュは慌てて手を振る。

「いえ、すみません。自分はこれで失礼しま――――」

「バナナ!!」

「はいよ」

 何故か自分の注文までするマリンにサッシュは驚く。

「あ、あの、自分は・・・」

「いいから座りなさい!」

 バンバンとテーブルを叩くマリンの姿に嫌な予感がしたが、ロイルが苦笑しながら手で空いている席を示すので、サッシュは恐る恐る椅子に座った。

「・・・・・・・・」

 マリンは足を組んで、更に腕組みをした状態で、サッシュを睨み付けた。

 何故睨まれるのかさっぱり分からないが、居心地が悪い。緊張するサッシュの背中に汗が流れた。

 すぐに注文した品を親父が運んできて、マリンはストローに口を付けた。

「ワイヤ君もどうぞ、飲んで下さい」

「・・・はあ」

 よく分からないが、サッシュもジュースを飲む。

 三人は暫く無言でジュースを飲んでいたが、やがてマリンが大きな音を立てて、グラスをテーブルに置いた。

「マリン、お店の物は壊しちゃいけませんよ」

 ロイルの言葉をマリンは無視して、サッシュを睨み付けた。

「・・・あなた、確か警備隊の・・・なんだったかしら?」

「ワイヤ君ですよ。サッシュ・ワイヤ君」

「そう、サッシュだったかしら?」

 サッシュはいきなりの呼び捨てに頬を引きつらせた。


 ――――バンッ!


 マリンがテーブルを強く叩く。

「どういう事かしら!?」

 サッシュは意味が分からず、眉を寄せた。

「・・・え?何がですか?」

 マリンがテーブルをバンバン叩く。

「全然警備出来てないじゃない!あなた達、いったい何をやっているの!?私のお金返して!」

 バンバンバンバンバンバンッ!!!

「マリン、それは八つ当たりでは・・・?」


 ――――バキッ!


 頬を殴られテーブルに突っ伏したロイルとマリンを交互に見ながら、サッシュはある答えにたどり着いた。

「・・・まさか、またお金を盗まれた・・・とかですか?」

「騙されたのよ!」

「・・・・・・・・」

 先日あんなことがあったばかりで、また問題が起きていることに、サッシュは呆気に取られ、思わず同情たっぷりの視線でロイルを見たのだった。


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