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フィーバー!! ①

作中の「美少女」とは見た目のことであり、未成年をさす言葉ではありません。

主人公は物語の舞台となっている国の法律では立派に成人しております。

お酒は二十歳になってから。ギャンブルは程々に・・。暴力反対!

この物語はフィクションです。

グダグダながら完結。濃い下ネタがあります。ご注意下さい。

 きらびやかな空間。

 人々はそこで、ひとつの夢を見る。

 そう、「一攫千金」という夢を。


 王都でも一際華やかなこの場所で、ひとりの少女がイライラと左親指の爪を噛みながら、右手でスロットマシンのレバーを引く。

 少女はもう既に結構な金額をこのスロットマシンで使っていた。

 少女の美しい黄金の髪は乱れ、深い緑の瞳には苛立ちがあらわれている。

「なにこれ、壊れてるわ、これ。ぜんぜん当たらないじゃない。もう!この!」

 回る数字の下にあるボタンを乱暴に叩く。

 7を三つ揃える事が出来れば大当たり。大金を手にできる。

 しかし、もちろんそう簡単にいく訳は無く、少女の苛立ちは今まさにピークを迎えようとしていた。

 スロットマシンを壊しそうな、乱暴な少女の動作に伴い数字が止まる。


 ――――7・7・・・


「ぉお!きたの!?きたのね!!いや、待って、ここは慎重に行くのよ」

 少女は目を細めてじっと回る数字を見る。指はいつでも押せるようにボタンの上。

「見える!見えるわ!回っている数字がまるで止まっているかのように私には見えるわ!」

 腕に、指に力が入る。

「ここだぁー!!」

 指がボタンを強く押す。回っている数字がピタリと止まる。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・なに、これ、どういうこと?なになに、なーんーでー!何故に8!?信じられない!この腐れマシン!!」

 絶叫しながら拳でガンガンとマシンを叩く。その上蹴りまで加えようとした時、深いため息が聞こえ、少女の身体がふわりと浮き上がった。

「マリン、もう帰りましょう。充分遊んだでしょう?お金も無くなってしまったことですしね」

 少女――マリンは首を曲げて、後ろから自分の脇の下に手を入れて軽々と持ち上げている人物を睨む。

「うるさい!ロイル。ぐだぐだ言わずに金をだせ」

「だから、もうお金はありません」

 ロイルはハァっともう一度ため息を吐くと、そっとマリンを床に下ろした。

「嘘、あるでしょ」

「ありませんって」

 言いながらロイルはポケットから財布を取出し中をマリンに見せる。

「ほら、無いですよ。だからもう帰りましょう」

「・・・・・・・・」

 無言で俯くマリンにロイルが右手を差出した。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 マリンがそっと左手を乗せる。

 それに満足そうに微笑んで、ロイルはそのまま出口へ向かおうとした。・・・が、マリンの足は何故か動かない。

「どうしたんですか?」

「・・・・・・・・」

 マリンは自分よりかなり上の方にある、ロイルの茶色の瞳を上目遣いに見た。

「・・・疲れちゃった。足動かないよ。ねぇ、抱っこして」

 その言葉にロイルは一瞬目を瞠り、そして嬉しそうに笑む。

「・・・仕方ないですね」

 ロイルはヒョイとまるで赤ん坊を抱くように軽々マリンを持ち上げて自分の左腕の上に座らせる。

 片腕だけで抱き上げているが全く苦になってはいないようだ。

「さあ、帰りましょう」

 そして出口に向かって一歩踏み出した時、


「――――!!!」


 大人しくしていたマリンが突如ロイルに襲い掛かってきた。

「―――うわ!!」

 咄嗟にマリンを両手で支え、ロイルは足を踏張った。

 マリンはロイルの服の襟を左手で掴み、右手を服と素肌の間に無理やりねじ込む。

「ちょっ、こら、ま、―――あぁ!」

 探るマリンの指先に何かが触れた。

 ――――ニヤリ・・・

 いやらしく口角を上げ、マリンは勝ち誇った瞳でロイルを見ながら、ゆっくりと指先に触れたモノ――財布を取り出した。

「あるじゃないの。お・か・ね」

 ヒラヒラと見せびらかすように財布を振る。

「いや!それはダメです。返して下さい」

「何?聞こえないなぁ」

 財布を口元に当て、目線をそらす。

「それは生活費なんです!無くなれば給料日まで残り一週間、どうやって生きていくんですか?もうパンも肉も魚も、あなたの大好きなお酒だって家には無いんですよ」

「あぁ、だ・い・じょ・う・ぶ」

「どこが大丈夫なんです」

「倍にして返すから」

「そんな根拠も保証も何もない言葉信じられません」

「酷い!私の事が信じられないの?私の事愛して無いのね」

 ハァ・・・と、ため息をついて、ロイルはマリンと視線を合わせた。

「愛してますよ。俺の可愛い奥さん。でも、それとこれとは別の問題です」

 そう、この二人実は夫婦なのだ。

 ロイル・ウェルターとその妻マリン・ウェルター。

 見た目だけは超美少女、中身は問題有り過ぎのマリンと、見た目はマリンと並んでも全く引けを取らない自称超愛妻家のロイル。

 色々な意味で注目を浴びやすい夫婦である。

「うるさい!屁理屈言うなバカ!」

 マリンの左手が伸び、ロイルの髪をむんずと掴む。

「痛い痛いイタイ!」

 マリンは掴んだ髪を右に左に引っ張り、最後に思い切り力を込めて引っこ抜いた。

 ――――ブチブチブチ!

 嫌な音がしてロイルが固まる。

 視線だけマリンの指に向けると、ロイルの瞳と同じ茶色の髪が細い指に何本も絡まっていた。

「マリン・・・」

 脱力したロイルの胸に渾身の蹴りを食らわせ、マリンがよろめきながら床におりる。

「バカバカハーゲー!」

 叫びながらメダル交換カウンターに向かってダッシュする。その右手にはしっかりと財布が握られていた。

「・・・・・・・・」

 もう何度目か分からないため息をついて、髪の抜けた部分を擦る。

「・・・仕方のないひとですね」

 困ったように眉をよせ、嬉々として走って行く妻の姿に苦笑するロイルであった。


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