反抗
お嬢視点です。
バ・カ・じゃ・な・い・のか?!
隊長のド阿呆の書き置きを、くしゃくしゃに丸めて、細かくちぎって、一片残さず燃やして灰にして水に流した。
吸血鬼でも復活できないくらい念入りに処理したぞ、オラァ!
手早く身支度をして、別荘を出ようとしたところで、問答無用で拉致された。多勢に無勢は無理だろう。こちとら一般人なんだから、プロ5人以上は捌けるわけがない。
馬車に詰め込まれて護送されること2日。山道で、再襲撃された。
「よう、お嬢。来たぜ」
「おっちゃん、ありがとう!」
護送メンバーを一人で全員沈めた拳王のおっちゃんは、流石としか言いようがない。見た目、山賊だけど。
おっちゃんに連れられて避難した先には、聖女のリナちゃんと侍女さんがいた。
「どうして?」
「あのバカが、”お嬢を頼む”と連絡を寄越しました」
侍女さん、”あのバカ”って、うちの隊長のことですかね?たしかに大馬鹿者ですが、侍女さんの口からそんな言葉が出るとインパクト強いです。
うちの阿呆から侍女さんへの連絡は詳細はなくて、本当に一言だけと奴の剣だったらしい。それで滞在していた海辺の別荘をすぐに出て、おっちゃんに私の救出を依頼して、独自に潜伏場所を確保したのなんで?何その行動力。
まぁ、結果的には大正解?っぽいのがまたなんとも。
「お嬢を護送していたのは辺境伯んとこの奴らだ。今回、どこまでが敵か、わからんぞ」
うーん。さしあたって今いるメンバーが、聖女のリナちゃんと侍女さん、拳王のおっちゃん。それに、自分か。あ、剣聖先生も外で見張っててくれているの?……両先生がいる時点でわりとどうとでもなる戦力だな。
「この後どうする?俺は嬢ちゃんに従うぜ」
「王都へ行く」
「王城の特務に助けを求めるのは難しいですよ」
いえいえ。退職したい古巣に厄介にならなくても、王都にはお世話をしたり、お世話になったりした知り合いが沢山いるから。
「ここの孤児院の子供達、聖女として視察に来たときより、いい笑顔で仲良くしてくれます」
「リー姉ちゃんも、聖女やってたときより、今のがいい顔してるよな」
「ねー」
さしあたってリナちゃんは孤児院のお手伝いさんに入ってもらって、先生方は裏路地の掃除をしたときの知り合いのところに身を寄せてもらった。
「お嬢様の個人的人脈と口車が強すぎます……」
「みんな親切ないい人で助かるよ」
自分と侍女さんは、以前経営改善に協力したレストランのツテで食品納入業者に協力してもらい、王城の食堂のおばちゃんにも話を付けることに成功した。
「あんた、そうやって年頃の娘らしい格好をしていると、可愛らしい子やったんやねぇ」
ううう。女物のほうがスカーフとかショールとか、顔を隠しやすいアイテムが多いから、女物を着ているだけで、気分は仮装なんです。あまりいじらないでください。
王城の中に入ることさえできれば、侍女さんは勝手知ったるものだから、自分が食堂のおばちゃん達と新作メニュー作りつつ雑談している間に、ガンガン情報収集してきてくれた。有能すぎる。
来たついでに、残業と夜勤の人のための夜食の手配まで手伝ってから、さて帰ろうと食堂を出たところで、特務の班長に見つかった。
「こんなところで何をしている」
「あ、わかりました?」
「わからいでか!夜食にあんなものだしおって」
気づいてくれるかな〜とは思ったけど、初動が早いよ。さすが班長。
「お父上が心配しているぞ。早く実家にもどれ」
「いやぁ、幼馴染の親友を助けないといけないんで、もうちょっと自由にさせてもらいます」
父から、問い合わせが来たら、そう伝えるか、知らないと誤魔化しておいてくださいと言ったら、青筋を立てられた。
「自分、もうじき18なんですよ。子供ってこれぐらいの時期に親への従属意識を変換しておかないと成長できないんですって。班長さん、17,8のときって、親と友達のどっちを優先しました?」
「……友人程度で家には背かん」
「恋人は?なんだってやってやれると思える大切な他人っているでしょう」
班長は言葉に詰まった。
あれ?意外だな。ずっと従順だった口か?まさかその歳でも父親の意向は絶対だとか?いやいや。
「敬愛しているかどうかと、庇護下に居続けて無条件で権威に服すかは別です。幼少期の単純な反抗とは別に、適切な時期に通過儀礼として親子ともに意識変革しておかないと、世代交代ができない不健全な親子関係になります。自分は父上のように立派な領主になって後を継ぎたいので、今回は家がどうだろうと、この意地はらせていただきます」
決意のほどを、真正面から班長に宣言してから、一歩近づいて、眉を寄せた班長の渋い男前な顔を、斜め下からチラリと見上げた。
「親に内緒で、一緒に悪いこと、しちゃいません?」
特務班長が仲間になった。
女子高生にたぶらかされるリーマン……。
ちなみに本日の夜食は、細長いパンにソーセージを挟んだ物。
お嬢が特務で勤務していたとき、手軽で仕事しながらでも片手で持てると言って、よく食べていました。
「由来は知らないけど面白い名前なんだよ」
と言って、お嬢が教えた名前のインパクトが強かったので、班長はよく覚えていました。




