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サステナブルな領主の婚約者になりたくて……龍退治しないといけないってマジですか  作者: 雲丹屋


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闇落ち

怪我がそれなりに治っても、俺はしばらくヤサグレていて、仕事に復帰しなかった。


「アホですか。普通は人間はあの怪我のあと、こんな短期間であるき回ったりしません。いいから寝てなさい」

鬱々としている俺が鬱陶しかったのだろう。そんなことまで言われて自室に追いやられた。


仕方がないので、薬の臭いに顔をしかめながら、私信や報告書に目を通しつつ大人しく過ごす。

王都の邪教徒殲滅作戦はあまり進捗が良くないようだったが、俺は指揮には戻されなかった。





龍と聖女が揃って領内にいると、発覚したとき何かとまずいということで、それぞれ別の別荘地に匿うことになった。


辺境伯が手配してくれた別荘は、湖畔の瀟洒な屋敷で、小さいが美しいところだった。


「あっ、たいちょ、見ーっけ」

「お嬢。お一人ですか」

お嬢の側を片時も離れない龍が、珍しく一緒にいない。

「うん。これから温浴に行くところなんだ。すごいぞ!ここの温浴設備は。なんと、天然のホットスプリングから湯を引いてるんだ。流石、寄親なんてできるちゃんとした貴族は違うな。ユーザーニーズの把握とホスピタリティの精神が素晴らしい」


辺境伯を単なる田舎貴族だと思っている節のあるお嬢は、ニコニコ上機嫌で天然温泉の効能を説き出した。


「お前も最近、仕事で怪我したんだって?一緒にどうだ。湯治療養って言って、温泉は怪我の治療にいいんだぞ。お前も温浴は好きだろ。昔はよく一緒に入ってたもんな」

「そうですね」

「そういえば、お前こないだ侍女さんと二人で飲み明かしたんだって?そのあたり、ちょっと詳しく聞かせろよ」

「話すようなことはなにもないですよ」

「お前、まさか侍女さん酔わせて口説いたりしてないだろうな」

「一方的に酔い潰されただけです。勘弁してください」

苦笑する俺に、お嬢はつまらなさそうにちぇっと言った。

「最近、付き合い悪いぞ」

「お嬢がお忙しかっただけですよ」


俺を見上げていたお嬢は、スッと視線を落とした。

「んー、まぁ……お前が酔って女口説いたりしない男だってのは知ってるよ。お前、男女の付き合いに関してはスッゲーお硬いもんな」

お嬢は、お前が龍さんの私へのああいう態度と、それを容認している私をよく思ってないのも知ってる、と言ってごめんなさいと謝った。


「俺に謝ることではないです。でも、お嬢は領主の子女なんですから、結婚前の男女の交際に関する節度は守るようにしてください」

「はい」

「温浴、行くところだったのでしょう?楽しんで来てください」

「うん。上がったら、久しぶりに一緒にゲームしよっか。龍さんと遊ぼうって約束しているんだ。お前も暇だろ」

「そうですね」

「じゃ、あとで」

ひらひら手を左右に振りながら、彼女は、温浴場に歩いていった。




俺は客間にいた龍に声をかけ、久しぶりに奴と二人きりで対面した。

「随分、顔色が良くなったな」

テーブルに置かれたボードゲームの駒を見ていた龍はすっかり落ち着いた様子で、満ち足りた顔をしていた。

逆に俺は苦い気持ちで、多分あまり顔色は良くないはずだった。


「男よ」

龍は超越者の余裕に満ちた声で、いっそ無邪気とも言える笑みを浮かべた。

「我はお前を創ったものと、お前が創ったものを手に入れたぞ」

「そうか。良かったな」

迷いがなくなり腹が決まった。

俺は龍をテラスに誘った。

「いい天気だ。一緒に一杯やろう」


俺は龍を弱体化させる割魂湯の小瓶をポケットの中で握りしめた。

神殿勤めの元暗殺者が密かに寄越したものだ。龍の身柄を引き渡せば幹部待遇で迎える用意があると伝えてきた。

俺が猟犬部隊から外されてクサっているという話を聞きつけたのだろう。悪い奴らも必死なだけあってそれなりに仕事が早い。


「お前に頼みたいことがある」

「なんだ?」

水面に煌めく日差しが眩い白いテラスで、俺は龍に薬の入ったグラスを渡した。


「俺のリベンジの贄になってくれ」


俺は薬を飲んで苦しむ龍の口を塞ぎ、アーティファクトの枷をはめて、手早く拘束した。テラスの下に待機させていた小舟に龍を蹴り落とす。

自身も小舟に飛び乗って、龍の身体を隠すように菰を掛けた。

「出せ」

小舟は美しい別荘を離れた。




ああ、お嬢にゲームはご一緒できないと一言断りを入れておけば良かった。

別荘が見えなくなってからそう思った。

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