ぶた仲間 ⑥
翌日の任務は、終始、騎士の連中に元気が無かった。イベリコ豚は顔が死んでいるし、その他は単純に疲れているようだった。
リフィがイベリコ豚をブタとして連れ帰ろうとしていた珍事件は、食堂にいたイベリア隊全員が目撃していた。アタシたちがリフィを連れ去ったあと、茫然自失としていたイベリコ豚を騎士全員で夜通し慰めたらしい。
アタシの想像通り、生まれてこのかた女にモテた試しなどないイベリコ豚は、リフィの気のあるそぶりに内心期待しており、騎士としてにしろ、男としてしろ、どっちにしたってビッグチャンスが来たと思っていたらしい。
しかし、蓋を開けてみればブタとしてのスカウトである。結果、イベリコ豚はこう考えた。初めから全部、からかわれていただけだったのだ。女囚たちのいたずらに、教誨師までもが加担して、からかっていただけなのだ、と。
ビックチャンスだと思ってたらピッグチャンスだった。昨晩、イベリコ豚のジョークを笑えた騎士はいなかった。
実際のところどうなんだ、とオレインから訊かれたアタシは、リフィのブタ狂いっぷりを説明し、さらに、魔法適性には性格や考え方が深く関わっていると言われてるが、神聖魔法の適性者は総じて思い込みが激しい、ということも付け加え、決してからかったわけではないことをこれでもかと説明した。
任務が終わってすぐ、アタシたちは豚小屋で作戦会議を開いた。
「事態は急を要します。イベリコ豚がこの件を上に報告すれば、私たちの刑期は確実に延びるでしょう」
「報告はしないんじゃないの? 囚人と教誨師にいじめられましたなんて、プライドが許さないでしょう」
「そのプライドをリフィがバッキバキにへし折ったんだ。見たろあの死んだ顔。今のあいつならなにしたっておかしくねえ」
「ごめんなさい、私のせいで。教えを伝えるどころか、刑期を伸ばしてしまうなんて、教誨師失格ね」
「諦めないでください。きちんと説明すれば分かってくれます」
「説明って、リフィはブタが大好きだから、なんて言うつもり? それこそ馬鹿にしているじゃない」
「だったらどうすんだよ」
アタシが言うと、ベラはいやらしく唇の端を歪めた。
「簡単じゃない。口で言っても分からないなら、体に直接教えてあげれば良いのよ」
ルースがなるほど、とつぶやく。アタシは天を仰ぐしかなく、意味の分かっていないリフィはきょとんとしていた。
「リフィ、とりあえず服を脱ぎなさい」
「ええ!? なんで!?」
「いいから早く」
恥ずかしがるリフィの修道服をひん剥き、全裸にする。
「今更恥ずかしがることないでしょう。裸なんてお風呂でいつも見てるじゃないの」
「場所が違うでしょ!? そ、それに、ブタさんも見てるし……」
「ブタ相手になんで照れるんだよ」
「ブタのペニスってエグい形してますよね」
ルースの台詞にリフィは顔を真っ赤にする。
「前々から思っていたんだけれど、あなた、どうしてお肌の手入れしてないの? 第二の印の治癒効果は髪や肌のダメージにも効くのよ?」
「神聖魔術は他者のために使うものです。自分のために使うものではありません」リフィが真面目な顔で言うと、ベラは呆れたように肩をすくめる。
「じゃあ私たちが手入れしてあげるから。あーあー、あちこちかきむしっちゃってもう……こんな場所に寝泊まりしてるからよ」
三人がかりでリフィの肌を丁寧に治す。修道服の頭巾で隠れていた髪も、ひどく傷んでいたのでサラサラにしてやる。
「おお、良いじゃねえか」
「やっぱりお肌は大事よね。見違えたわ」
「これ、名乗らないと誰か分からないんじゃないですか?」
「気づかなかった男はマイナス百点ね」
リフィに修道服を着せ、三人で囲んで最終チェックをしていると、
「おーい、今日は飲みに来ねえのか?」
少し酔った様子のオレインがやってきた。
「んん? そこのべっぴんさんは誰だ?」
「マイナス百点」アタシらは全員で口をそろえた。