ぶた仲間 ③
豚小屋の清掃が終わり、餌も配り終えたところで、再び柵から逃げ出した黒ブタが今日のスケジュールを発表する。
「今日から近隣の森で防護柵の点検だ。魔物に遭遇した場合は可能な限り撃滅する。本来なら二人一組で来てもらうが、ステフ司祭は外回りが初めてのため四人で来てもらう。任務にはここにいるメンバーの他に、第十三騎士団から七人の騎士が参加する。担当はベラ司祭とルース大司祭が三人ずつ、リフィフィ司教は残りの二人を見つつ、ステフ司祭に指導を頼む。常に担当の騎士から目を離すな。俺たちは全力でお前らを守る。そのぶん、傷を負ってしまったらよろしく頼む」
なんかキャラ変わってねえか? ギャップ萌えを狙っているんですかね。丁寧口調が実はオラオラ系とか、イケメンしかキュンとこないのにね。ルースとベラと、三人でコソコソ言い合っていると、
「みなさん! 真面目にイベリコさんの話を聞きましょう!」
やけに張り切っているうえに、心なしか口調まで丁寧になっているリフィから注意された。
「ありがとうございますリフィフィ司教。ですが私の名前はイベリアです」
イベリコってブタの種類じゃなかったか? 黒ブタですね。じゃあ合ってるじゃない。
まったく反省の色を見せないアタシたちをよそに、リフィは若干頬を赤らめてイベリコ豚に言う。
「リフィでいいですよ。ほら、リフィフィって呼びづらいので。私もイベリコさんと呼びますから」
「それではお言葉に甘えまして、これからはリフィ司教とお呼びします。ですが私はイベリアでお願いします。イベリコはシンプルに間違いなので」
「わかりました、イベリコさん!」
「いや、ぜんぜんわかってな……ってああ、時間が……とりあえず出発しましょう」
イベリコ豚が歩き出したので、アタシたちはそれについていく。
イベリコ豚へと楽しげに喋りかけるリフィと、やや照れながら真面目を装っている、見るからに女慣れしていないイベリコ豚を眺めつつ、アタシたちは雑談に花を咲かせる。
「なあ、なんだかんだリフィが一番失礼じゃねえか? さっきからずっとイベリコって呼んでんぞ」
「悪気はないですから」
「立場も私たちと違うしね」
「違う? なにが?」
「知らないの? リフィは囚人じゃなくて教誨師よ」
「なんだそれ?」
「囚人にエイリス教の教えを説いて回り、改心させる人です」
「じゃあなんでわざわざ豚小屋に寝泊まりしてんだよ。部屋くらい用意してもらえるだろ」
「リフィの希望よ」
「アタシたちを改心させるために、一緒に寝泊まりするってことか?」
「そうではなく、豚小屋がいいと希望したらしいです」
「私たちが豚小屋暮らしなのは、それに巻き込まれているだけよ」
毎日ケモノくせえ場所で寝起きしてるのはあのブタ狂いのせいだったのか。ふざけんな。
「そういえばお前らはなにやらかしたんだ?」
「救われぬ者に、救いの手を差し伸べていました」
「死なせてくれと請われようと、決して諦めることなく」
「ああ、なるほど……えげつねえな」
「そういうあなたは?」
「闘技場に関わってたのと、スパイ容疑」
「スパイって、フランツ帝国に情報を流してたってことですか?」
「極悪人じゃないの」
「容疑って言ってんだろ。情報は流してねえ。闘技場のオーナーがフランツ帝国の要人だっただけだ」
「もしかして、モンテカルロの夜ですか?」
「ああ、あったわねそんな事件。戦争が終わって、フランツ帝国に逃げ帰ったはずの第四王子とその親衛隊が、アルファス領でこっそり闘技場を運営してたとかなんとか。挑戦者と親衛隊を戦わせて、観客は金を賭けて楽しんでいたんでしょう? 野蛮よねえ」
「挑戦者も含め、関係者は全員まとめて捕まったと聞いています」
「それで、あなたはどう関わっていたの? 挑戦者にエントリーしたのかしら? それとも観客のほう?」
「いや、なんつーのか、どちらかというと、受けて立つ側?」
「なによそれ、どういうこと?」
「おい、雑談は終わりだ」
イベリコ豚が言い、アタシたちは口を閉じる。任務を共にする騎士たちと合流し、アタシたちは砦を出て森の中に入った。