表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

ぶた仲間 ⑫

 デートだった。紛れもなく、そういうつもりでオレインはアタシを誘ったらしかった。

 酒場のおばさんを治療したあと、オレインはアタシを丘の上にある展望台へと連れていった。展望台からは、オロバス領への後方支援を行っている近隣のストラス領と、そのずっと先にあるクッスレア本国が見えた。

「ほんとは夜に連れてきてやりたかった。クッスレアの街明かりが綺麗でよお、王姫の住む塔がぽうっと光るんだ」

 懲役中のアタシは日が暮れる前に砦へと戻らなくちゃならない。まるでシンデレラの逸話みたいだと、雰囲気に酔っているのか、ガラにもなく思う。隣にいるのは王子様じゃなく、酒浸りの騎士だが。

「飲みながら言うことじゃねえけどよお、俺ぁ、まっとうな騎士になりてえんだ。そのためにここに来た。俺のいたフォカロル領じゃ、任務中に酒を飲む騎士ばっかりだ。フォカロル領出身ってだけで、どこの貴族も雇っちゃくれねえ」

 酔っているのか、身の上話を始めたオレインに、アタシは水の入った皮袋を渡す。

「いいよ、水なんざ。酒に酔ってるわけじゃねえんだ」

 オレインがこっちを見る。酒盛りで見せる馬鹿面とはまったく違う、真剣な顔。だらしない酒浸りはどこかに消え、男盛りの精悍さが浮き出てくる。

「言っただろ。酒も女も、強くねえと酔えなくなっちまった」

 オレインがアタシの肩に手を回す。喜ばしいことだ。こんなアタシを好いてくれるなんて。オレインが顔を近づけてくる。ありがたいことだ。口づけ一つで誰かを幸せにできるなんて。それだけじゃすまないかもしれないけれど、構いはしない。手の届く限り、誰かを幸せにすると決めたのだから。

 迫ってくるオレインの顔。そのはるか向こうで、鳥の群れが飛んでいる。そっちに焦点を合わせると、オレインの顔が視界の中でぼやけて、遠近感を失う。そのままじっと鳥たちを見つめる。夕日を背に飛ぶ鳥の群れ。あれが一羽だけだったら、自由を連想していたのだろうか。

 アルコール臭が鼻をつき、なんだか現実に引き戻されたような気になる。どうせならアタシも飲んでおけば良かった。そんなことを考えながら、そのときを待つ。

「わりい。調子に乗りすぎた」

 くちびるが触れあう直前で、オレインは体ごとアタシから離れた。

「オレイン様」アタシはなにか、とても悪いことをしてしまった気がして、離れていったオレインに寄り添おうとする。

 しかし、オレインは突っぱねるようにアタシの肩を押しかえしてきた。

 オレインは酒壺の蓋を閉め、背を向ける。

「そろそろ帰らねえと、日が沈む」

 大股で歩き出したオレインを、アタシは修道服のスカートが音を立てないよう、足を小刻みに動かしながら懸命に追いかける。丘をくだる階段にさしかかり、オレインの影が階段の形に合わせて折れ曲がる。蛇のようにぐねぐねと、影は階段の上をなぞっていく。その動きがぴたりと止まる。

「なあ、ステフ」

 オレインが振り向く。気まずさから目を合わせることができず、言葉の続きをじっと待つ。

「俺といる時間は、贖罪か?」

 そんなわけがない。そう思いたいのに、アタシは否定の言葉を口にできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ