『勘違いされ悪役聖女の濡れ衣伝説~誤解です!私そんな勇者じゃありません~』あるいは『聖エリシェバの列聖』
聖エリシェバは、当派にとって重要な人物ですが、名前こそ知られていても、実際にどのような偉業をなした聖人かはご存知ない方も多いと思います。教父様のテキストに登場する期間が短いこともあり、現存するのは短くも重大な戦いが一つ、記されているのみですので、仕方のない事なのかもしれません。
あのBeautiful-Terror、Bat-siTの魔王。Blindness-Thanatos、恐るべき桃髪の悪魔と呼ばれていた頃の、最も初期の教父様のパーティーで果敢に戦った彼女の、勇ましい伝説を本日は語りましょう。
彼女の最も有名な逸話と言えばその口上でしょう。聖エリシェバを知らずとも、この口上だけは、どの戦士たちも必ず一度は口にする、あるいは耳にして顔をしかめた記憶があると思います。(これはテキストから失伝落丁した聖エリシェバの内容が、後世において口伝で受け継がれていた例であることが、大昔の研究者達の書簡のやり取りから再発見されました。今日では、当時の貴重な資料から推察するしかない散逸したテキストがあまりにもおおくなりました。)
ペースト―ジェノサイド―ベーゼ―エリーゼ、という口上が有事の彼女の口癖でした。
常と変わらぬ凄絶な笑みを浮かべ、このように宣う、勇ましい戦乙女であったと云われています。
彼女の、唯一にして重大な英雄伝説でもそれを口にしています。
それは教父様がShorterCornを仲立ちに、粟の民を人類圏に加えるという、新たな神との契約を交わしたために旧王家の衰退が決定的なものになった直後でした。
いかなるものも死ぬことなく甦る初心者の街で、追い詰められた旧王家の残党は神に唾吐くようなおぞましき計画を企てたのです。
それはすなわち、《ソウルイーター》の特性を持つ武器で、肉体を殺す前に魂を削りきり二度と甦らないようにする。という聖域を冒涜するものでした。
初心者の街とダンジョンから出ることのない教父様のパーティーに、尋常の暗殺を行うことは不可能であり、時間が経つほどに旧王家の勢力は衰えるばかりでしたので、完全な敗北を迎える前に、彼らはその子弟を初心者の街に送り込んだのです。
《ソウルイーター》の付与された武器も、まして同年代で教父様のパーティーに対抗し得る人材も、この時期を過ぎれば二度と集めることは出来なかったでしょう。以降の歴史に何度となく現れる旧王家の残党ですが、この初期の聖エリシェバの活躍が彼らの逆転の目を潰した主因であると、現存では考えられています。
彼ら旧王家の暗殺者たちに、勇ましい彼女が第一に狙われた理由は、恐らくは中衛を担当していたからだと推測されています。皆が皆前衛を担う攻撃的な教父様のパーティーの中では、まだ与し易しと考えられたのでしょう。しかし、それは重大な誤りでした。
永遠の命を願う実の母に、体を乗っ取られそうになるも、彼女の持ち前の性格から、記憶と悪意の濁流に精神が溺れ死ぬこともなく、母の秘術の全てだけを受け継いだという、その逸話からも彼女の勇ましさが伝わります。
また、偶然ですが相性も彼女に有利に働きました。種族的特性かその大鎌かによって、彼女もまた《ソウルイーター》のスキルとその耐性を備えていたのです。それでも単独の時を狙われた、多対1での戦いは、魂の削りあいによる凄絶なものであったことは想像に難くありません。
彼女はそんな不利な戦いの中でも、いつもと変わらない笑みを浮かべて何時もの言葉を告げたとテキストには書かれています。
ペースト―ジェノサイド―ベーゼ―エリーゼ-エンドユー
彼女ほどの強者をして逃げおおせぬほど使い手たちであったのか、あるいは彼女の侠者としての矜持が逃げることを覚えなかったのか。翌朝には暗殺者たちと彼女、聖エリシェバの遺体が無惨な有り様で見つかり、そして彼らは二度と甦ることはありませんでした。
その凄絶な死に様に感じ入り、我らが教父様は当時まだ名がなかった当宗派に、彼女の口癖から採って《神との約束のために》派と名を付けたのです。彼女の献身を忘れないために。
彼女は生前は教父様の盾として果て、死後は当派の名付け親として、大変に貢献した偉大な聖人の1人なのです。
「私は緑髪のエリーゼ、あなたのお名前は?」