表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/53

47.クルトのたたかい(上)

「なあ、あんた偉い将軍さんなんだって?」


リュミエールの兵士がひとり、クルトに向かってそう聞いた。


「ああ。将軍は『元』だがね」

「そうかね。そいじゃ聞くが、大丈夫なのかね、この盾」


兵士は、持っている大盾を示す。

他でもない、クルトが命じて配った盾だ。


「いつもの盾よりずいぶんと軽い。それに貼ってある鉄も、薄く見えるんだが・・・・・・」

「大丈夫だ。それはとてもいい物だよ。この元教国大将軍にして、リュミエール軍臨時総帥(仮)補佐のクルトが請け負おう」

「そうかい。それならええんだが」


クルトの言葉にも、兵士はどこか不安そうだ。

かたかた、と、その盾を持つ彼の手が震えているのにクルトは気づいた。

兵士は盾に不満があるのではない。

たぶん、なにもかもが不安でたまらないのだろう。


ムリもない、とクルトは思う。

兵士、という職にあっても、彼は実戦なんて、ほとんど経験したことがないだろうから。

彼だけじゃない。

リュミエール軍のほとんどがそうなのだ。


ましてや相手はあの帝国軍。


歴戦の勇士でも、裸足で逃げ出す相手である。


――だが、乗り超えてもらわねばな――


クルトはまた、そうも思う。

ことここにいたっては、立ち向かうしかないのだから。


「おいおい、しゃんとしろよ」


クルトがなにか気の利いたことでもいおうとしたその時、横合いから声がかかった。

最初に声をかけてきた兵士と、同じような年頃の別の兵士だ。


「そうはいうがよぅ」


別の兵士は、盾を持つのと別の手で、ばんばんと肩を叩く。


「忘れたのかよ。俺たちの後ろに誰がいるかを」

「姫様・・・・・・!!」

「そうだよ、アンネローゼ様だ。俺たちがやらなきゃ、誰がアンネローゼ様をお守りするっていうんだ!!」


はっとした顔をして、最初の兵士が盾を構え直した。


「そうだったな。あのおやさしい姫様が、悲しむようなことがあっちゃなんねえ」


いつの間にか、彼の手から震えが消えてなくなっている。


クルトは内心ほっとしつつ、鋭い目で空を見上げた。


黒い点。そして線。


それらがひとつ、またひとつと数を増し、

気づいた時には空一面を埋め尽くしている。


「来るぞ、構え!!」


クルトの鋭い声が、リュミエール軍中に響き渡った。


                  □■□

「ふん、他愛もないですねえ」


帝国将軍、ルイは彼の命で放たれた矢の数々が、雨となって前方のリュミエール軍に降り注ぐのをつまらなそうに見ていた。


「それでは、終わらせますか」


リュミエール軍を隠し包む、土煙がおさまるのを待たずに、彼は右手を高く掲げる。

それを振り下ろした時が、突撃の合図だ。


大量の矢で防御を崩し、突撃して粉砕する。

基本に忠実なやりかたは、ルイの好みではなかったが、手っ取り早く棲ませるにはそれでいい。


どのみち、リュミエール(こんなところ)に長居をするつもりなんてないのだから。


リュミエール軍などさっさとかたづけて、後片付けはラカンあたりに任せて自分はすぐに国に帰る。


ルイの頭の中には、帰った後のことばかりが浮かんでいた。


――そろそろ、大将軍を目指す時機ですかねえ――


一介の冒険者に過ぎなかった自分が、最強の帝国軍で最高の地位を得る。

それはとても魅力的で、ルイの好みでもあった。


――それとも、リュミエールを手土産に、政治家に転身するのもいいでしょうか――


そもそも、ルイは戦が好きでも得意でもない。

もちろん、並みの将軍としての実力くらいは持ち合わせてはいる。

いるのだが、悪巧み・・・・・・政治的な駆け引きこそ、彼の本領といったところだ。


――帝国宰相。これもなかなかに魅力的な響きですね――


あれこれと考えているうち、リュミエール軍を包んでいた土煙が晴れようとしていた。


「それでは、みなさん、いきますよ」


彼は右手を振り下ろそうとし・・・・・・


「報告!!リュミエール軍健在!!!」


叫ぶような声が、あたりに響く。

とっさに、ルイは振り下ろしかけた手を押しとどめた。


「なんです?」

「それが、リュミエールの損害は軽微で・・・・・・」

「ですから、もっと具体的に!!」


ルイは苛立たしげにいう。


「はい。我が軍の矢は敵の盾を貫けず・・・・・・」

「もういい!!」


物見の報告を聞くまでもなかった。

その時には土煙もすっかり晴れている。


多少の乱れはあるものの、その陣容は開戦前とほとんどかわることはない。

鈍色に光る盾を掲げ、帝国軍の矢を完全に防ぎきったリュミエール軍の姿が、ルイの眼前に広がっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき、ありがとうございます

↑↑を★★★★★にして応援頂けると嬉しいです

ブックマークもたいへんはげみになります


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ