表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/53

42.緒戦

「なあ、賭けをしねえか?」


応えず、マルカはヴォルフをちらりと見ただけだった。

ヴォルフは気にせず先を続ける。


「俺たちふたり、相手もふたりだ。よーいどんで一騎打ちに持ち込んでだな」

「おい、遊びじゃないんだぞ」

「姫さんのことだ」

「アンネローゼさまの?」


ヴォルフは武器(えもの)を担ぎ直して、にっ、と笑う。

幅広の片刃大刀に槍ほどの長い柄がついている。

偃月刀(えんげつとう)は普段武器を持たないヴォルフにと、ツクモがあつらえた特別製だ。


「先に相手を倒した方が、姫さんとふたりきりで出かける。ってのはどうだ?」

「・・・・・・」

「ほら、最近よくあんだろ? 三人で出かける用事がな。負けた方はその道すがらで退散するって寸法よ」


そこまで聞いて、マルカの手が素早く動いた。

いつも帯びている短剣が、手妻のように現れている。


「その前に、まず私と貴様で一騎打ちだ。まずはその口を塞ぐことこそ必要なようだからな」


冷静な口調だが、こめかみのあたりに血管が浮いているように見える。


「まあ、そう怒るなって。おまえさんだってしたいだろ? 姫さんとデート」

「な、私は・・・・・・」


より直接的な表現をされて、マルカはうろたえた。

それを肯定ととって、ヴォルフはうんうんとうなずいた。


「いいじゃねえか。たまにはおねだりしてみろよ。姫さんならつきあってくれるだろうぜ」

「そういう問題ではない」


マルカは手の中で短剣を握り直した。


「お、やるかい?」

「勘違いするな。おまえからアンネローゼさまを引き離す必要がある。ただそう思っているだけだ」

「上等。で、どっちとやる?」


マルカは向かってくる帝国の軍人を見る。

大柄な男と細身の男。

対照的なふたりだが、どちらも只人(ただびと)ではない気配がみてとれた。


「立ち位置通りでいいだろう。私が細い方。おまえがムダにでかいあいつだ」

「諒解。おい、間違っても死ぬんじゃねえぞ」

「貴様もな。・・・・・・貴様が死ねば、アンネローゼさまが悲しむだろうから」


ふたりはそれきり口を紡ぐと、お互の拳を打ち合わせた。


                  □■□


「ほう。こんな小国にも、多少は骨のある奴がいたらしい」

「面倒な。弱者は黙って頸を差し出せばいい。そうすれば楽に死ねるものを」


リュミエールの王都へ向かう影ふたつ。

ユーゼフとゴッヅの行く先に、マルカとヴォルフは立ち塞がった。


「馬鹿め。それでは愉しみというものがない。反抗する相手を寸刻みにしていたぶることこそ・・・・・・」


ガ、ギィィィィン


突然、耳に障る金属音が鳴り響く。


「なるほどなるほど。骨だけでなく実力も備えているようだ」


喋りながら、ゴッヅがいきなり振り下ろした大斧の一撃。

ヴォルフがそれを、偃月刀で受け流してみせたのだ。


「こんなに愉しそうな相手に出会えるとは。わざわざ辺境まで出ばってきた甲斐がある!!」


ぐふふ、と、ゴッヅは嫌らしい嗤いを浮かべる


「まったく。私の愉しみの時間が減ってしまうではないか。あまり遊んでいないで、さっさと片付けていただきたいな」

「わかったわかった。前菜はさっさと終わらせるさ」


ユーゼフがため息つきながらいうのに、ゴッヅが応えて懐からなにか取り出した。


「あれは・・・・・・」


それは瓶、いや、ちいさな箱のように見える。

ゴッヅは手早くそれを開けると、中身を口の中に流し込んだ。


「はじめから全力だ。これで文句あるまい?」


バリバリとなにかをかみ砕きながら、ゴッヅがいう。

効果はすぐに現れた。


もともと、ヴォルフ以上に筋骨逞しかったゴッヅである。

それが、徐々にいや、あっというまに膨れていく。

ただ膨れるというのではない。

充分な筋量を保ったまま、よりでかく、より逞しく。


あるいは、『巨人』


そう表現してしまいたくなる、ゴッヅの姿がそこにあった。


「薬、かよ」


ぽつりとつぶやいたヴォルフの声は、ゴッヅの雄叫びにかき消された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき、ありがとうございます

↑↑を★★★★★にして応援頂けると嬉しいです

ブックマークもたいへんはげみになります


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ