40.激励!!
リュミエール軍臨時総帥(仮)
それが、いまやわたしの肩書きね。
余計なものがいろいろついて、格好いいって感じじゃない。
あのとき、なんでオッケーしちゃったんだろうな。
わたしはなんどめか、そう思っていた。
あぶないよ、大変だよって、たくさん心配してくれたお父さま。
できます、やります、やってみせます、って大見得まできっちゃった。
いまさら、あとのことは詳しいかたにお任せします、
っていう雰囲気じゃないのは確かみたい。
もともと、命をかけるつもりだったから、
こう、なんというか気持ちが盛り上がってしまったのだ。
帝国の使者あいてに大立ち回りしてしまったことといい、
これは反省が必要かも。
一国の王女たるもの、おしとやかさとか慎ましさって必要だってと思うのだ。
むむむ、なんだかおかしいな。
転生する前のわたしって、確かそういうお姫さまみたいなの、一番に得意だったきがするのに。
「ツクモ、武具の説明をお願いする」
クルトの声に、わたしははっと我に返った。
わたしがリュミエール軍臨時総帥(仮)に就任したのと同じ時、
彼も リュミエール軍臨時総帥(仮)補佐へと任命された。
手渡された剣をすらりと抜き去るその姿は、もう絵描きって名乗っていたときのそれじゃない。
「きれい」
おもわず、そんな声が口から漏れた。
ひと目見たら目が離せない。
吸い込まれるような刀身が、鈍色の輝きを放っている。
「リュミエールここに落ち着くと決めたとき、元いた国の仲間から、大量に送ってもらったんだ。武器としては使えなくても、鋳つぶして鍋釜にもすればいいと」
「そんな、もったいない」
こんなに美しいものなのに。
「でも、お高いんでしょう?」
そういうと、ツクモは自嘲気味に嗤った。
彼に促されて、クルトは剣を裏返す。そちらには小さく、細かな紋章が刻まれている。
クルトと、それから彼のお師匠さん。
彼らの工房でつくられた。
そこに刻まれる紋章だそうな。
「元いた国では、その紋章がついてるものが、次々に捨てられているのだと聞いた。国に仇なす呪いの妖刀、だそうだ」
だから、使ってはならない。そうおふれがでたのだとか。
「見ての通り、ものはいい。捨てられるくらいなら、鋳つぶしてでも使ってやった方が師匠も喜ぶ」
そう思ったのだがね、と嗤いながらツクモはどこか寂しそうにいった。
「本来の用途で使ってやれるなら、それにこしたことはない。師匠も許してくれるだろう」
□■□
「さて、一通り作戦は伝え終えた。なにか質問はあるかね」
クルトの言葉に、返すひとはだれもいない。
「よろしい、では、リュミエール軍臨時総帥(仮)閣下よりお言葉がある。みな心して聞くように」
「・・・・・・え、わたし?」
いきなりふられて驚くと、クルトが耳に口をよせて囁く。
「どのような言葉でもいいのです。姫君から言葉をかけてあげたなら、みな喜ぶでしょう」
そうかなあ、とわたしは思った。
リュミエール軍臨時総帥(仮)に就任して、ひとつだけびっくりしたのは、みんなが嫌な顔ひとつしなかったことだ。
だから余計なことはせず、静かに椅子に納まっていた方がいいように思うんだけど。
そう思って周りを見ると、みんながわたしを見つめていた。
これはやっぱり、なにかをいわなきゃいけないな。
「みなさん・・・・・・」
そこまでいって、わたしはぐっと言葉に詰まる。
こういうとき、なんていったらいいんだろう。
勝ちましょう。
頑張って。
死なないで。
なんだかどれも、しっくりこない。
突然、ふわっと『とある情景』があたまに浮かんだ。
そうね。これだわ。
わたしは思った。
追放者のみなさんの力を借りて、
帝国にまで逆らって。
わたしがしたかったことってこれだ。
「ぜんぶ終わったら、みんなで楽しく、お菓子をいただきましょう!!」
その場のみんなの歓声が、あたりいっぱいに響き渡った。




