3.マルカの事情
「マルカ、おまえをパーティーから追放する」
マルカがそう告げられたのは、彼らの冒険者パーティーが、騎士としてゴルドー帝国に召し上げられた
その祝いの席でのことだった
「なん・・・・・・で」
驚きのあまり、マルカにはそういうことしかできなかった。
「当然、というか察していてほしかったのだがな」
リーダーのルイが、酒の入った赤ら顔で少しにやけながらそう返す。
「俺たちは帝国騎士になるんだぞ。まさかおまえ、自分もそうなれると思っていたのか?」
ルイの目が、無遠慮にマルカの全身を見回した。
大陸の南の果て、そこに棲むというエレンシア人の特徴を多く備えた、その身体を。
「帝国ってところは、そういうことに厳しいんだ。ましてや騎士ともなればなおさら、な。おまえは頭も切れるんだから、察して、出て行ってくれるものと期待していたんだが」
「でも、俺がいないと、このパーティーは・・・・・・」
まだ少年の年頃ながら、マルカがパーティーにはたしてきた役割は大きかった。
というよりも、ルイたちのパーティーが、騎士として取り立てられるまでに活躍できたのは、ほとんどマルカのおかげである。
短刀を両の手に持ち、対手を屠っていくマルカの戦闘力は他に並ぶものがないといわれた。
彼無しでは並みの冒険者にも劣るルイたちを尻目に、真っ先にモンスターの群れに飛び込み、ひとりで成果をあげてきた。
強大な魔物の討伐も、
レアアイテムの収集も、
それから、騎士に取り立てられる要因になった、あの冒険だって、
マルカがいなければ、なし得なかった結果なのに・・・・・・・
「なんだぁ? マルカおまえ、俺たちに恩着せる気なのか?」
「そうだぜ。エレンシア人とのハーフのおまえを、拾ってやったことも忘れて!!」
ルイ以外のメンバーも、脇からマルカを責め立てた。
彼らがいうように、エレンシア人を好んで雇う冒険者は数少ない。
けれども、マルカが彼らのパーティーにもたらしてきたものは、それを補ってあまりあるはずなのに。
「まあいいじゃないかみんな。マルカともこれで縁切りだ。もう二度と顔をみることもないだろう」
「そうだな。俺たちは帝国騎士になるんだ。もう嫌々エレンシアの奴と組まされることもない」
「ちょっとばかり強いからって、俺たちに指図までしやがって。ほんとうにせいせいするぜ」
ルイに続いて、仲間だった者たちが口々にそういった。
「そういうわけだ、マルカ。荷物をまとめて、とっとと俺たちの前から消えてくれないか? ここは俺たちの祝いの席なんだ。エレンシア人は身をつつしんでくれないか?」
マルカにはもうなにも言葉にすることはできなかった。
□■□
街、だ
とマルカは思った。
パーティーを追放されてから、もうひと月が経っている。
ルイのパーティーを追放された彼のことを、ふたたび雇ってくれる他の冒険者は、ただのひとつも現れなかった。
出自のことがあるとはいえ、マルカの強さはあたりの誰もが識るところだ。
それだけで、雇い先には困らないはずなのに・・・・・・・
マルカを雇わないように、ルイが圧力をかけているのだ。
そういう噂も聞いたけど、マルカにはその理由がわからなかった。
「へへ、エレンシア人のおかげで騎士になった、なんてバレたら、こっちも都合が悪くてね」
かつての仲間、そのひとり。
彼がそんなことをいいながら、マルカの前に現れるまでは。
すでに抜刀し、あきらかにマルカを殺そうと企んでいた彼。
引き連れていた部下もあわせて、総勢は10人ほどだったろうか。
その程度、本気を出したマルカには、問題にもならなかった。
ただひとつ、相手が帝国騎士だったことをのぞいては。
騎士を傷つけたエレンシア人とのハーフを、帝国は決して許さなかった。
なんとか国境を逃れ出て、たどり着いたその先で、
マルカはすべてを使い果たし、石畳の上に倒れ込んだ。
歩けないどころか、立ち上がる力も、そして気力も、もう残ってはいない。
酷い耳鳴りがして、あたりの声さえほとんど聞き取れなくなっていた。
冷たい風が、マルカに最後に残ったものを、少しずつ削っていく。
「たいへん、だれかたおれているみたい」
耳鳴りの中、ちいさなその声は、なぜかはっきりマルカに届いた。
「はやく、おいしゃさまを・・・・・・それから、なにかかけるものを。かわいそうにこんなにふるえて・・・・・・」
とたとたと、なにかが近づいてくる音が続いた。
「え、ないの? どうしましょう・・・・・・それなら、えいっ」
ふいに、なにかふわふわとしたあたたかいものがマルカを包んだ。
「まっていてね、すぐにおいしゃさまがいらっしゃるわ」
マルカの耳の近くで、誰かがそうささやいていた。
誰かはマルカに抱きついて、そうして彼をあたためようとしてるみたいだ。
「いけません、アンリエッタさま。お召し物が汚れてしまいます」
じんわりと、でも確実に、マルカの身体が温まっていく。
「うう、これであしたもおやつぬきかくていね・・・・・・」
そんな声が聞こえたけれど、それでも誰かは、マルカの身体を離さなかった。
それは、マルカがもう何年も感じたことのなかった、人のあたたかさなのかもしれなかった。
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