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24.おしょくじかい

「アンネ、ほんとうにありがとう」


それはいつもの朝ご飯。

わたしがチーズを挟んだ黒パンに舌鼓をうっていると、お父さまがそう声をかけてきた。


「ふ、ふもふぐっ」


柔らかく伸びるチーズが、お返事しようとしたわたしの口をねばりふさいで放さない。


「あらあら。大丈夫?」

「んぐっ、むぐぐ。だ、大丈夫です。お母しゃま」


なんとか口の中をからにしたわたしは、お父さまに聞き返した。


「それで、なんのお話ですか? お父さま」


お父さまはなぜだかため息をついた。


「アンネ、あなたはいま少し、落ち着きを身につけた方がいいかもしれないね」

「うぐ、はい・・・・・・」


しかたが無いじゃない、と心の中で思いながら、わたしは頷く。

だって、このチーズ、とってもおいしかったんだもの。


「もっとも、今度のことはアンネの勢いのいいところが、よい方向にはたらいた結果だからね」


今日はこのくらいにしておくけれど、とお父さまは表情を緩めた。


なんのことかしら?

はてな、が貌にも現れていたようで、お父さまはふふっと笑って、それから続けた。


「追放者、いいや、違うな。そう、ビーストテイマーの彼、だけどね」


リットくんのことだ、とわたしはちょっと身構えた。


「聞いたよ。すばらしい働きだというじゃないか」


-リットくんなら当然のことよ-


と飛び出しかけたその言葉を、なんとか口の中で押しとどめる。

さっきお父さまから落ち着きなさいって、注意されたばかりだし。

かわりにわたしは、机の下できゅっと拳を握りしめた。


「ツェペットさんが目を輝かせて褒めていたよ。なんでも王宮の牛乳や卵の収穫量が4割増しになったのだとか」

「まあ、それは凄いわね」


お母さまが相づちをうつ。

お父さまは、続けて黒パンを軽く掲げた。


「それだけじゃない。味もね、ぐっと良くなったと、厨房でも評判だ」


それでか、とわたしは思った。

どおりで、おいしいチーズだと思ったのよ。


「今度、王都の畜産業者さんたちを集めて勉強会をするみたいじゃないか」

「勉強会だなんて、そんな大層なものじゃないのよ」


『追放者さんのためのおうち』でみなさんとお話しましょうって、そういう企画が進んでいるのは確かだけれど。


「まあ、偉いのね、アンネ」

「そんな、わたしなんて・・・・・・」


リットくんやツェペットさんがやりたいっていうものだから、ちょっとお手伝いしているだけだ。


「それだけじゃない。鍛冶屋の彼も、リュミエール王国には無いすばらしい技術を持っていたと聞いているよ」

「そうなのよ、お父さま。ツクモさんだけじゃないの。他にもすばらしい能力を持っている方が、たくさんいるんだから」


だからね、とわたしはお父さまにお願いする。


「王国のいろんな方を紹介してほしいの。まずは鍛冶屋さんでしょ、それからそれから」

「ははは。わかったよアンネ。あとで必要な人物をまとめてきなさい」


お父さまがそういって笑ったのと同時に、


「失礼します」


と声かけて、シエラが部屋に入ってきた。

手には小さな籠を持っている。

のぞき込むと、こんがりときつね色に焼き上げられ、甘い匂いを漂わせたお菓子がふたつ、ふわふわとわたしを呼んでいた。

スフレ、みたいだけど。


「わあ・・・・・・」


もしかして、このお菓子にもリットくんが手を貸した牛乳や卵が使われているのだろうか。


わたしはわくわくしながら手を伸ばす。


と、


「いけないよ、アンネ」


かけられた声に、わたしはぴくっと手を止める。

そうしてギギギって音がしそうなほどゆっくりと、お父さまへと振り返った。


「約束したでしょう。確か、半年分だったよね」

「うぐぅ」


とわたしは声をつまらせた。


「新しいお願いを聞いてあげるかわりに、食後の甘いものを半年分。アンネからいい出したのでしょう?」


ギギギ、とわたしはもう一度スフレの方を振り返る。

それはふわふわと、わたしの口にはいりたそうにしているのに。


「その通りです、お父さま」

「あら、せっかくだもの、わたしのをわけてあげましょうか?」


お母さまがそういってくれたけど、わたしははっきりと首をふった。


「うん。偉いね、アンネ」

「ごめんなさい。余計なことをいってしまったみたい」


残念だけど、とわたしは思った。

楽しみは、半年後にとっておきましょう。


それまでに、やることは山積みなんだから。


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