表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/53

20.どうぶつとおしゃべり

飛びついたリットくんを振り払おうとしてか、牛は何度か身をよじった。


ヴォルフに角を押さえられていながらも、それははげしく、リットくんは何度も振り落とされそうになる。


-危ない-


なんて声を掛けるひまもない。

わたしは汗ばむ手をぎゅっとにぎった。


「ヴモ、ヴモーーーー!!」


首にまわした腕。そこに一生懸命力を入れつ、リットくんは口元を、牛の耳へと寄せていった。


「よーしよしよしよし」


かすかに、そんな声が聞こえてくる。

こころなしか、牛の勢いがゆるんだように見えた。


「おい、こいつは……」


ヴォルフに目だけで合図して、リットくんは牛にぎゅっと抱きつきながら続ける。


「 ヴ、ウ、ヴモゥ」

「そっか、そうなんだね。そんなに痛かったんだ」

「モォウ」

「大丈夫。みんなもわかってくれるから」


よしよし、とリットくんが牛のほおをなでる。

彼が言葉を重ねるたび、暴れ牛からだんだんと力が抜けていった。


「えらいね、よく頑張った」


その声と同時に、牛は膝を折って芝の上に倒れ伏す。

リットくんはまわしていた腕をはずして、その隣に着地した。


「ツェペットさん」


呼ばれて、ツェペットさんがリットくんへと駆け寄った。


「なにか、痛み止めのようなものを持っていませんか? 彼、どうやら蜂に刺されて、それでびっくりしちゃったみたいなんです」


リットくんが示したところ、牛のおしりにみんなの視線があつまった。

いわれてみればたしかに、そこはだんだんと赤く、腫れ上がりつつあるみたいだ。


「ツェペットさん?」

「お待ちくだされ。痛み止めなら、ここに」


ツェペットさんは懐から小さな入れ物を取り出して蓋を開け、中の軟膏らしきそれを、牛のおしりに塗りつけた。


「ウ、モォーウ」


牛は小さくうめくように鳴いたけれど、ふたたび暴れるようなことはなかった。

なんとなくだけど、その顔から険がとれて、薬の効いているような気配がする。


「どう? よくなってきた? うん。それはよかった」


リットくんはひとり言をいうように、牛によりそってくれている。

わたしは、みんなを代表して口をひらいた。


「ねえ、リットくん。もしかして、牛さんとおしゃべりできてるの?」

「はい。ビーストテイマーって、そういうものですから」


なんでもなさそうに、彼はいう。


「やるじゃねえか、リット。そりゃあれだろ? 牛以外にも動物なら大体いけちまう感じなのか?」

「はい。あ、全部はためしたことないですけど、ほとんどの動物の言葉はわかります」

「すごいわ、リットくん。どうしていってくれなかったの?」


リットくんは恥ずかしそうに顔を逸らした。


「ぜんぜん、自慢するようなことじゃないですから。現にツェペットさんなんて、言葉がわからなくても、こんなに動物に慕われているわけですし」

「それも、彼らから聞いたの?」


リットくんは頷いた。

ごほん、とツェペットさんは咳払いする。


「動物たちと話ができる、ですとな」


そうして、彼はリットくんの肩に手をやった。


「それがほんとうなら、ぜひとも力を貸してほしいのう」

「え、でも……」

「この歳になっても、まだまだ彼らのことは、わからないことだらけじゃ。さっきの暴走も、ワシにはとめられんかったわけじゃしの」


ツェペットさんは次にわたしの方を向いた。


「姫様、そういうことでよろしいですかな?」

「わたしは……」


動物とのおしゃべりか、とわたしは考える。

小さな頃読んだ絵本のお姫様に、動物とおしゃべりできる、そんな方がいたはずだ。

そういうことができたらいいなって、思ったこともあったっけ。


そうだ。リットくんに通訳してもらえば、わたしにも同じようなことができるかもしれない。


「アンネローゼさま?」


どうかしましたか? とわたしをのぞき込むリットくん。

いけないいけない。今はリットくんのお仕事の話をしなくっちゃ。

わたしは彼に向き直る。


「リットくんは、それでいいの? その、動物さんたちのお世話だけれど」

「はい! 願ったり、です!!」


リットくんは、勢い込んでそういった。


「そう……」


ならばと、わたしは精一杯まじめな顔を作ってみせる。


「では、リュミエールの王女として正式に依頼したいと思います」

「わかりました。僕、頑張りますね!!」

「よしなに」


そのいい方がおかしかったのか、ヴォルフが、ついでツェペットさんが、最後にはリットくんまでもがくすくすと笑い出す。


「アンネローゼさま、お怪我はございませんか?」


暴走牛事件。それをどこかで聞きつけて、駆けつけてきてくれたのだろう。

マルカが息せき切ってやってきたその時には、わたしたちは皆、笑顔で牛さんを囲んでいた。

【よんでいただき、ありがとうございました】


評価やブックマークはお任せしますので、よろしければ続きの話も読んでいただけると非常に嬉しいです。


評価はこのページの下の方にある【☆☆☆☆☆】をタップしていただくと、できるようになっています。


ブックマークしていただくと、続きが追いかけやすくなります。


こんごともよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき、ありがとうございます

↑↑を★★★★★にして応援頂けると嬉しいです

ブックマークもたいへんはげみになります


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ